UXDE dot Net

地域に開かれた公民館のようなオフィスビル《SHIBAURA HOUSE》を科学する-解体新所#02レポート-【前編】

By -

JR田町駅から徒歩10分。芝浦エリアに、ひときわ美しいビルがあります。その名は「 SHIBAURA HOUSE」。世界的建築家・妹島和世氏によるこの建築物は、近隣で暮らす人、働く人、そして海外からのゲストも集まるコミュニティスペース。同時に、創業60年を迎えた印刷とデザインの専門企業、広告製版社のオフィスビルでもあります。

料理や英会話のクラスから、海外のゲストを招いたレクチャーまで、年間に100回をこえるプログラムを実施しているSHIBAURA HOUSE。さらに1Fは誰でも無料で出入りができる場として開放され、ランチタイムには近隣の人々で賑わっています。明るくて開放的、そしてクリエイティブ。そこはまるで、「新しい公民館」「新しい公園」の理想型のよう。いったいなぜ、民間企業がこのすような場を運営しているのでしょうか? そして、現在のようなコミュニティを育むまでにはどのような試行錯誤があったのでしょうか?

2017年1月19日、広告製版社代表・伊東勝さんと当時、妹島事務所でSHIBAURA HOUSEの建築を担当した建築家/SANAAパートナー・山本力矢さんをお迎えし、お話を伺いました。

 

会社を引き継いだとき「建物から変えよう」と考えた

前半では、伊東さんと山本さんによるトークセッション。SHIBAURA HOUSEのできるまでとできた後のストーリーが振り返られました。

伊東勝さん(広告製版社代表) SHIBAURA HOUSEは、2011年7月に広告製版社の自社ビルとして竣工しました。少し歴史を遡ると、広告製版社の創業は1952年です。製版というのは印刷の前工程、印刷に巻きつける版を製造・制作する業態。1950年以降、高度経済成長期の新聞広告は右肩あがりのビジネスでした。僕達のクライアントも大手企業ばかりで、創業時から業績は良かったと聞いています。今でも関係性は続いています。

建て替える前の広告製版社のビルは、なんの変哲もない地味な建物。1階には大きな製版機があって、5階建て。社員は40人ぐらい。ほとんどが製版の職人で、9割が男性です。毎日毎日、新聞広告のデータをつくっていた。この頃の芝浦エリアは、埠頭があって、倉庫街でした。

旧社屋
http://www.shibaurahouse.jp/about/concept_story

伊東 ところが、DTPだったり、インターネットがでてきて新聞広告の受注が減ってきたんですね。2010年にはピーク時の約18億円から3億~4億まで売上が下がりました。そんなとき、僕が入社し、父親の仕事を継ぐのか、会社を維持するのか畳むのか、みたいな話があって。でも、入社して早々におしまいとなるのはどうかなと思いまして。多少、手元に資金があったので、何かしら、不動産と資金を使って、建物をかえて会社やそのビジネス自体を変えていこうと考えました。

製版は職人の世界です。もちろん、とてもリスペクトしているのですが、仕事を受けてその通りにやっていかなければならない縛りがある。広告の世界も変わってきているし、何かしら自分たちでも、イベントをやったりコンテンツをつくりたい。そういう可能性を探っていたのが、2008年頃です。

 

倉庫、マンション、オフィス。交わる場所のない街だった

伊東 あとは自分達の会社だけじゃなくて、地域のことも考えました。芝浦の景色を見ると、倉庫とマンションと、オフィスが並んでいます。それらに関わる人々が、交わるような場所がないんです。でも、これだけ人いるんだったら何かうまく繋げることができないか。芝浦エリアから、自分達の存在価値やサービスを何かしらつくって提供できないかなと思い始めました。

17238765_10154911220146368_1111521327_n

17274222_10154911220151368_1703205556_n

伊東 新しいマンションや小学校ができて子どもが急増したし、田町駅を利用する人は1日平均15万人もいる。親子連れやサラリーマンが増えています。オフィスビルに公園みたいなものができれば人が集まってくるし、集まってきたらコンテンツも自然と生まれるんじゃないかなと、当時は考えてました。数字を弾いたりは特にしていません。後のことは建築家に相談して考えてみよう、と。

やりたかったのは、企業として事業性を担保しながら、地域性や国際性、文化性を付加して、相関関係をつくりながら、建物の運営することです。制作事業だけでなく、フリースペースをつくったり、イベントやったり、レンタルスペースを運営する、新しい事業を加えるとよいと考えました。

 

オフィスビルなのに執務室は1フロアだけ!「縦型のワンルーム」

伊東 建物の在り方を決めたら、早速、妹島和世さんの事務所に相談に行ってみたんです。

山本力矢(建築家・SANAAパートナー) 当初、伊東さんのイメージもまだ漠然としていて。「自社ビルを建てて1階を地域の人のための何かにしたい」でした。

伊東 それぐらい曖昧だったので、僕と山本さん、妹島事務所のスタッフで海外の建築作品を見て回ったんです。そして、1年間ぐらい毎月ミーティングしました。その結果、スキップフロアで上から下までつながっている「SHIBAURA HOUSE」の設計案ができました。

山本 最初は「1階に地域のホールをつくりたい」みたいな話でした。あと「会社の人が何やっているかわからないのがいやだ」「5階建てだけどエレベーターはいらない、階段をいっぱいつけてくれ」とか。結局エレベーターつけたんですが、なるべく階段を使って移動したいなとあって。そこから、「縦型のワンルーム」のアイデアが湧きました。みんながどこにいても、存在を感じられる空間です。

そして、図面と模型を持っていくんですけど、最初は5階建てのうち4階がオフィス。1フロアだけオープンでした。それが伊東さんに預けて一週間ぐらいたったら、5階建てのうちの3フロアがオフィスになって、さらにプレゼンを重ねるごとにどんどん減って2フロアになって、最後は「社長室もいらない」と言われて。結局、5階建てのうちの4階の1フロアだけがオフィスになったんです。

伊東 そうでしたね。

山本 いったいどうなるのか分からないまま設計が進んで、怖かったですね。
山本力矢

伊東 経緯を話すと…もともと印刷の機材がたくさんあったんですね。印刷機とかスキャナーとか。それがデジタル化で省スペースになり、いまやMac1台あれば働けるんです。それで既存のオフィスの考え方も不要だと。外部に開放することで将来的に、どんなに転んでも使える空間にしたいと思ったんです。

ちなみに、クライアントの仕事があるので、4階だけはセキュリティ上、警備サービスを入れてオフィスらしくしてます。でも僕は4階で仕事していません。SHIBAURA HOUSEの運営スタッフも中2階でうろうろしながら仕事しています。

山本 「4階がオフィスで、社員が3階で休憩したり1階で打合せしたりして、そこに地域の人達もいる。仕事しているうちに地域の人と何かできるといいなあ」と伊東さんに言われてイメージが分かりました。唯一、それが具体的でした。

そのため、1階にすごくこだわったんです。地域の人がふらっと立ち寄れるコンセプトで、ドアをでっかくして入りやすくし、ハードに使えるようにコンクリートの床にしました。なるべく地域の公園的な場所で、ちょっと室内っぽいぐらいの造りです。芝浦には公園が少ないので、公園になるといいなと考えたわけです。

 

近所の奥さんをインストールしてみた

伊東 SHIBAURA HOUSEユーザーの中には、強い個性が強くて、変なモチベーションを持った人がやってくるんですよ。例えば、この写真の女性、銀座のスナックのママみたいでしょう?(笑) こういう人は、毎日毎日やたらきていて、こちらが気になって話して仲良くなるんです。そのうち、運営に入れたらいいんじゃないかなと考えて、このノムラさんという女性をアルバイトとして、SHIBAURA HOUSEに“インストール”してみたんです。

ノムラさんは、近所のマンションに住んでいる奥さんで、仕事ができるし、ネットワークが広い。SHIBAURA HOUSEにどんどん人を連れてくるんです。平日のアルバイトなので人件費も抑えられる上、人がどんどん来る。いいことづくめだと気づいたのが2年前です。これに味をしめて、どんどんお母さんアルバイトを増やしています。

2016年の11月から料理の先生が来て、アルバイトのお母さんたちに料理を教え、ランチタイムにランチを出すプロジェクトをスタートしました。週2日・20食限定なんですが、お母さんたちはアルバイトで入りながら料理を学びます。社員はもちろん、近隣のOL、お母さんた友達にすごく売れているんです。最近、パーティ利用で借りる人にもお母さんたちのケータリングをオススメしています。

17236807_10154911220176368_616413337_oお母さんの提供するランチ

 

公共を目指しながら、“公共施設”ではできないことをやる

伊東 ユニークな使い方として紹介したいのは、子どもたち向けの夏休みのワークショップです。ペットボトルを1200本集めて、1泊2日でSHIBAURA HOUSEに泊まって、舟をつくって東京湾に漕ぎ出すめちゃくちゃな企画。

17274028_10154911220171368_1535470475_o

伊東 普通、公共の施設だとこういうことができないと思うんですよね。テラスにテントをはったりとか、大人と一緒に泊まって夜も遊びに出たりとか、最終的には東京湾のすごい汚い海で泳いで遊んでいるわけです。SHIBAURA HOUSEは、公共をめざしながらも自分たちのルールで決めていって、ここまではリスクとろうと決めて決断しています。そこが一般的なパブリックとは違うところです。

あとはオランダ関係のトークショーやゲストを招いたイベントが多いのもSHIBAURA HOUSEの特徴。オランダ大使館の方が近隣に住んでいて、非常に仲良くなってやるようになったんです。「なんで、SHIBAURA HOUSEってオランダのイベントばっかりやってるんですか」と聞かれるんですけど、大使館の人と飲み友達でお金をだしてくれるからやっています(笑)。

 

構成&テキスト:中田一会