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アーバニストを訪ねて。 #1:現場から都市を思考する「Tokyo Transitions」主宰 クリスティアン・ディマさん

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[アーバニスト:urbanist]という言葉が、街づくりの現場で徐々に注目を集めています。

アーバニストを規定する“アーバニズム”という言葉は、日本では都市計画やそれに紐付いた工学技術によせて訳されることが多く、アーバニスト=プランナーだと捉えるケースも少なくありません。しかし実際は、アーバニストの領域はもっと広いのです。都市計画家に限らず、都市に関わる専門家全般、ひいては、都市の生活者たる市民そのものが「アーバニスト」であると言っても良いかもしれません。

本インタビューシリーズは、都市をより良いものにするため、分野横断的に活動する人々、アーバニストの可能性を探る試みです。

インタビューの聞き手は、トークシリーズ「解体新所 ―まだ名前のない場所を科学する―」の松井創(ロフトワークプロデューサー)と共に空間づくりに奔走する、ロフトワークのプロデューサー杉田真理子。解体新所が魅力的で新しい《場》に注目し、それを分解する試みであるのならば、このインタビューシリーズでは、その《場》づくりに関わる《人》にフォーカスをします。

 

ドイツから、日本へ。現場に身を置きながら、日本のアーバニズムを考える。

第一回目である今回のゲストは、早稲田大学で都市学の教鞭をとるクリスティアン・ディマさん。空間・環境デザイナーである彼は、15年以上日本にフィールドを起き、日本ならではの都市の有り様を巡って、多方面で活躍をしています。

杉田 今回はお時間ありがとうございます。まず簡単に、ご自身の活動内容について紹介をお願いします。

ディマ 私は過去15年間日本をフィールドにして、東京大学と早稲田大学で教鞭をとってきました。空間・環境デザイナーとして、公共空間や都市運動などをテーマに、Urban Studies (都市学) の研究活動を行っています。また、今までは学術界での活動が主だったのですが、3.11の東日本大震災が大きなきっかけとなって、今まさに社会で起っている現状に向き合った具体的な活動も行うようになりました。東京を拠点とした建築事務所「Frontoffice」や、社会的な課題に対する建築的な解決策を巡って活動する国際組織「Architecture For Humanity」の東京支部のほか、後に説明する「東北プランニングフォーラム」などのプロジェクトも行ってきました。

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「東北プランニングフォーラム」のウェブサイトでは、東北再生のために誰がどこで何をしているかといった詳しい情報を、インタラクティブマップで確認することができる。

杉田 幅広く活動していますね。「東北プランニングフォーラム」は、私も以前からチェックしていました。震災後の具体的な活動に関して、詳しく教えてください。

ディマ デザイナー、建築家、都市計画の専門家と市民の仲介役、ファシリテーターとして、フォーラムやトークイベントなどの形で復興計画の立案や議論の拠点を作ってきました。専門家と現地の住民が実際に顔を合わせて、再生計画について話し合う交流の場の創出です。

建築家って、自分たちの領域には詳しいんですけど、それだけで終わってしまうことが多いんですよね。都市プランナーも、エンジニアも、アーティストも、みんなそう。それぞれ内々のネットワークは持っているんだけど、あまり相互には交流しない。

あとは、都市計画や建築の分野って、やはりヒエラルキーがあるんです。トークイベントをやるにしても「あ、あの偉い先生が来るんだ」みたいな感じで人が集まリます。TPF²のような東北での活動をする上で意識したのは、こうしたヒエラルキーをなるべく除外して、専門家ではない人々にもフラットに議論を開くことでした。

そうすることで、「citizen urbanists(市民アーバニスト)」が増えていくのではないかな、と私は思います。

最近はコンテナを使ったアートプロジェクトなんかも構想中です。コンテナを移動する展示場として使用して、東北地域を巡ろうというものですが、まあこれはまた別の折にでも話します。
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都市計画はつまらないものじゃない。

杉田 ファシリテーターという言葉が出ましたが、現在ロフトワークでは、共創空間のプロデュースやボトムアップで地域の可能性を広げるプロジェクトなど、都市や空間に関わる取り組みを進めていて、ディマさんの関心領域とも近い部分が多いかと思います。ロフトワークでも既知の領域に固執せずに、新しい業界・業種の人をプロジェクトに招くことを意識しています。

ディマ そうですね。人と人をつなぐことは、“翻訳 (translation)”だと思うんです。

杉田 翻訳ですか?

ディマ はい。例として、「都市計画の翻訳」があげられると思います。日本のマスタープランの資料って、ダサいし、非常に分かりづらいですよね。ロフトワークのようなクリエイターとのネットワークがあれば、専門家とアーティストを繋いで一緒に協議しながら、こういったお堅いマスタープランを、もっと魅力的なものに「翻訳」出来ると思うんです。実際に「読める」「理解出来る」プランが、都市への市民参加には必要です。

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ディマさんの研究室にある貴重な地図やプランの中から、1996年出版の渋谷駅周辺のマスタープランを見せて頂いた。テキストは分かりやすく、地図はあくまでも魅力的で、専門外の人も気軽に目を通せる冊子になっている。「昔はちゃんとこういうことが出来ていたのに、いつのまにか消えてしまった」とディマさんは語る。

 

杉田 なるほど。「翻訳」というキーワード、都市の文脈で非常に納得しました。専門家と市民をつなぐプロジェクトとしてはロフトワークも取り組んでいる活動がいくつかあって、そのうちの一つにShibuya Hack Projectというものがあります。渋谷のざわざわとした多様性や隙間に着目し、様々な分野から都市のステークホルダーを繋げています。

ディマ
 大切な活動ですね。去年2015年に開催した「Tokyo Transitions」でも同じような活動をしました。このような活動が、citizen urbanists (市民アーバニスト)を増やしていくことに繋がっていくと思います。

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同冊子には、俯瞰図だけではなく、ストリートレベルの都市生活者についても詳細に言及されている。  

 

人と人をつなげることを意識した、変化の時代のTransition Design。

杉田 「Tokyo Transitions」 について、もう少し詳しくお聞かせ願えますか?やはりこうした人と人を繋げる思想が中心となって始まったものなのでしょうか?

ディマ Transition Designという新しい分野があって、最近はピッツバークのカーネギーメロン大学がこの名前の学位プログラムを始めました。我々は「Transition (変動)」の時代に生きています。気候変動が現実のものとなり、政治情勢は不安定なまま。新自由主義的なマーケットが東南アジアやアフリカのローカルマーケットを破壊し、難民は地中海を渡っています。このような現代において、今までのように専門家や政策立案者が全てを決定し、こうした変化を反映しないままお決まりのグランドデザインを作っていて、良いのでしょうか?

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2015年春に開催された東京トランジションズは、都市に住む全ての人々に向けた一週間のプロジェクト。創造的コミュニティ、まちづくり活動家、地域の意思決定者などの活動を、探し、繋ぎ、記録することを目的とする。出典:『place/making』/photo by 江上賢一郎

 
こうしたTransition Designの考えに基づいて、私たちは去年、国内外から参加者を募ってTokyo Transitionsというプログラムを実行しています。様々な専門分野からだけではなく、地域住民やアーティスト、行政関係者など多様な参加者を招いて、一週間の中で街歩きやトークイベント、ワークショップなどを行いました。1日の流れとしては、例えば午前にテーマを切ってトークを行い、そこで議論に上がった内容を意識しつつ南千住や向島などの具体的なエリアで街歩きをします。Shibuya Hack Projectが行ったヒミツクラブの手法に似ているのですが、この街歩きでは、秘密のメッセージを頼りに地元住民と交流したり今まで気づかなかったエリアの特徴に目を向ける仕組みを採用しました。そこで持ち帰った情報や、それまでは気づかなかった街の風景を元にチーム毎マッピングをし、展示を行って、最終的に大きな議論に持っていくという流れです。

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Tokyo Transitionsでは、まち歩き&マッピング、フォーラム、参加型エキシビションの3つを実行する。参加者は、専門家だけでなく、地域住民やアーティストや行政関係者など様々。出典:『place/making』/photo by 江上賢一郎

 

少人数の専門家が都市を作る時代は終わりました。経済学者、心理学者、グラフィックデザイナーや市民が、建築家やプランナーと共に変化の時代におけるデザインを考えるべきです。でも難しいことに、専門家は専門家同士、自身の学問領域の周りに壁を作って必死に守ろうとしがちですよね。

杉田 そうですね。現代の様々な事象は、一つの学問分野だけでは説明がつかないものが多い。ファシリテーションの話がありましたが、Tokyo Transitionsのようなイベントを通して、分野横断的に人々を繋げることがキーになりそうです。
 

3つの「Translation (翻訳)」に向けて。

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ディマ 人と人を繋げるに当たって改めて問う必要があるのは、「誰を」繋げるか、ということですよね。そこで私が必要だと思うのが、「翻訳家 (Translator)」の存在。「翻訳」はここではキーとなるコンセプトで、3つの意味があります。

一つは、今まで話してきたように、建築家や都市計画などの専門家同士の橋渡し(翻訳)。普段は意識しませんが、建築家は建築、地理学者は地図、ビジネスはビジネスなど、所謂「専門家」は自身の学問分野の殻に閉じこもりがちだと私は思います。今の時代に必要なのは学問横断の「interdisciplinarity」、どの分野にも収まりきらない事象に対しての、専門家同士のフレキシブルなコラボレーションです。

二つ目は、言葉通りですが、海外の言葉や文化の間の翻訳。言葉の壁を超えて交流するのはもちろんですが、特に日本の「お偉い」系の都市計画家や建築家、ディベロッパーなどは、すぐに西洋に答えを求めがちですよね。西洋型の事例をコピーアンドペーストするのではなく、かといって目を塞ぐわけでもない、日本のコンテクストに合わせたフレキシブルな応用が必要なのではないか、と私は提案したいです。

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自身の論文を広げるディマさん。「翻訳」を通して、様々な領域のアクターを繋げていく彼の作業は、まさにネットワークを大切にするファシリテーターの活動そのもの。

 

三つめは、市民のコミュニティ内部、また、専門家と市民の間の橋渡し(翻訳)です。小難しい用語や、難解で専門的すぎる図面や地図は、街と市民を切り離しがちです。市民アーバニスト (citizen urbanists) を生み出すためには、殻に閉じこもった専門知識をデザインやアートの力で揉みほぐし、市民にもAccesableな形で提供する作業が必要なのでは、ということです。ロフトワークが得意な領域だと思います。
 

新しい形の日本の「New Urban Commons」をPerform (実践)する。

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杉田
 翻訳のコンセプト、よく分かりました。Tokyo Transitionsは、まさにこの思想を体現したものですね。

ディマ そうですね。Tokyo Transitionsの最終日には、MAD Cityの寺井さんや、SHIBAURA HOUSEの伊東さんからも話を伺いました。こうした彼らの活動例は、勇気が湧きますよね。「こうするべきだ、あれが正しい」と市民に指図をしても、人々は動きません。こうした活動一つ一つのサクセスストーリーの方がむしろ、市民の胸に刺さるものがあります。

例えば、SHIBAURA HOUSEの伊東さん。元々はよくあるな広告製版社だったものを新しい息を吹き込んだのは彼でした。成功への過程は、失敗と試行錯誤の連続だったのではないかと思います。伊東さんのこうしたストーリーは、パーソナルなレベルで人に届くからこそ、励みになるし、インスピレーションを受けますよね。

杉田 そうですね。芝浦ハウスやコレクティブハウスかんかん森など、なんだか一言では言い表せないけれども魅力的な《場》は、トークイベント「解体新所」のフォーカスポイントです。そういえば以前、ディマさんがかんかん森に関して書いた論文を読みました。「New Commons (新しいコモンズ)」という言葉が印象的だったのですが、いかがですか?

ディマ 「コモンズ」というコンセプトがあります。誰もがアクセスできる共有資源のことで、社会関係の中で多くの議論がなされています。日本語では入会(いりあい)と訳されていますが、伝統的な特定団体を指す入会地に対して、私が興味があるのはむしろ「new urban commons (新しい都市のコモンズ)」です。例として、芝浦ハウスや、私が住むかんかん森を巡って新しくできているコミュニティがあります。

こうした都市型の新しいコモンズに関して特徴的なのは、伝統的な旧来の閉鎖的コミュニティとは違って、よりオープンであるということ。新しく入ってきたり、出て行ったりする人々の移動の中で、その都度「Perform (実践)」される必要があることです。芝浦ハウスやカンカン森のコミュニティは、常に変化を続け、実践され続けています。そのプロセスに終わりはありませんし、完成形態もありません。

杉田 コモンズを「実践」する、というのはぴったりな言い方ですね。

ディマ そう。コモンズやコミュニティは、静的で完成された「もの」ではない。むしろ実践され、変化するという点で、動詞に近いのかもしれません。大切なのは、その都度その都度、コミュニティ内部の価値観やルールなどを更新しながら、常に新鮮でダイナミックであり続けることです。この流れが止まれば、コモンズは死んでしまいます。

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早稲田大学のディマさんの研究室にて。本棚には、都市に関する多くの書籍や、地図やプランが並ぶ。

杉田 それらを踏まえた上で、これからの日本の都市に必要なものはなんでしょうか?ディマさんは、ポスト成長社会であり、ポスト3.11である日本の場所作りに関して、広く講演活動をされていらっしゃいます。

ディマ
 芝浦ハウスやかんかん森などの新しい場から生まれる「new urban commons (新しい都市のコモンズ) 」にポジティブな可能性を見出しています。都市生活における連帯の力や、環境への配慮、DIYやシェア精神など、増えつつある日本の新しい、都市のコモンズには期待が持てます。ただし先ほど述べたように、コモンズは生き物なので、対話やワークショップを通し、共通の価値を紡ぎだす作業は続けなければいけませんよね。私も現在、かんかん森で取り組んでいることです。


杉田
 次回の解体新所には、偶然にもSHIBAURA HOUSEの伊東さんがゲスト登壇します。ディマさんがおっしゃるような、ダイナミックに変化をし続けるコミュニティ作りの話など、もっと知りたいなと思います。今日は興味深いお話、ありがとうございました!
 

インタビュー/翻訳/テキスト:杉田真理子(ロフトワーク)

 

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Christian Dimmer

経歴:早稲田大学国際教養部助教/空間・環境デザイナー、都市研究者。博士論文「公共空間の再構築―日本の現代大都市の公共空間の歴史的批評とその再評価」で東京大学にて博士号取得後、東京大学大学院情報学環所属の日本学術振興会特別研究員として「公共空間の政治と論争」と「都市運動」をテーマに研究活動を行う。同時に建築設計事務所であるイソザキ・アオキ アンド アソシエイツや、不動産ディベロッパーの三菱地所などと協働し、また東京に本拠地をおいて建築活動を行う「Frontoffice」の共同立ち上げ人でもある。そして東日本大震災で被害を受けた地域における、レジリエンスをもち適応可能なコミュニティ復興のための革新的なアイディアを交換するための災害対応型慈善組織「Architecture For Humanity」東京支部と「東北プランニングフォーラム」の立ち上げ人でもある。現在、持続可能なアーバニズム、公共空間の理論、グローバル・アーバニズムとプランニング理論について教鞭をとっている。

英語で日本の都市デザイン情報を発信する「Japan Urbanism」の仕掛け人
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