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心地よいコミュニケーションが生まれる空間クリエイション〜plaplax:近森基 &筧康明インタビュー

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インタラクティブアートの作品制作を手がけながら、公共空間、商業スペース等での空間演出や展示造形、映像コンテンツ制作、インタラクティブシステム開発、プロダクトデザイン、大学との共同での技術開発など……、縦横無尽の活動を展開する「plaplax(プラプラックス)」。見る人や触れる人との間に心地よいコミュニケーションを作り出す彼らのクリエイションは、一体どのようにして生まれてくるのでしょうか?そんな疑問を解明すべく、FabCafeの岩岡がplaplaxの中心メンバーである近森基さん(上写真右)と筧康明さんにインタビュー。その創作の秘密について、お話を伺いました。

 

大切なのは、自分たちの枠組みじゃなく
クリエイションを活かせるかどうか

岩岡: plaplaxは、美術館やギャラリーに展示されるいわゆる「メディア・アート」の文脈で語られることも多いですが、一方で病院の空間設計といったプロジェクトも手掛けていますよね。“アーティスト集団”か“会社”なのか意識はどちらなんでしょう?

近森: どちらもあまり意識していないんですよね。自分たちのクリエイションを活かせれば、美術館だろうが、仕事の現場だろうが、こだわりはありません。とにかく「ここにこういうものがあるのが面白い!」と思うものをプレゼンして、それが受け入れられれば実現する。筧くんは工学部出身だし、僕も美大出身でもないので、実はそもそも作家志向は強くないんです。

: plaplaxの活動スタートは、10年以上前です。その頃、ミュージアムでの展示作品も手がけつつ、一方で東京・汐留のアド・ミュージアムの階段のインタラクティブな空間演出も仕事でやっていましたね。僕の卒論のテーマが「街の情報化」だったんです。例えば、ベンチを情報化していかにコミュニケーションを作るか、情報を伝達するかを考えていたんですね。街に暮らす人の経験をいかに豊かにするか、それが入り口でした。「既存のフォーマットを飛び越える」とか、「街に飛び出す」がテーマとしてあったので、メディア・アートでやって行こうとしてないんです。

plaplax-kakei

近森: 実は、メディア・テクノロジーを使わないプロジェクトも多いんですよ。どんなクリエイションでも「コミュニケーションを誘発する装置」にしたいんです。メディアかマテリアルか、アナログかデジタルか、ではなく、その先にあるコミュニケーションで何をするかが目的なんです。それをどう実現するのかを考える。すべての制作を自分たちだけで完結しないで外部とコラボレーションするという選択肢もある。手法はたくさんあった方が良い。僕たちの感覚では、例えばパソコンで作ったデータも木材も石ころも同列にあるんですよ。その目的や場所に適した手段・素材を選んで実現する感覚ですね。

岩岡: なるほど。プロジェクトによって異なるわけですね。

: 枠組みを限定する必要はないと思っています。依頼を受けて取り組む仕事の対象も、ものすごく広いけれど、例えば、“インタラクション”の切り口から入っていけば、自動車でもオフィス空間でも同じような考え方でまとめられる感覚がある。そこが面白いんです。

 

好奇心を刺激すると
新しいコミュニケーションが生まれる

岩岡: それでは、どういう仕掛けをして何を達成してきたのか。事例と共に教えてもらってよいですか。

大阪の子ども病院の内装nakano7

近森: 大阪の子ども病院の内装です。視察に行ってみたら待ち合いの廊下で子どもが泣きわめいていたり、X線室などでは置いてある医療機器が怖くて怯えたりしていたんです。そんな状況をデザインの力でなんとかしようと思いました。ある時期は毎月、病院のスタッフの皆さんとディスカッションをして、病院の問題点や希望を聞いたり、一緒にワークショップをしたりしましたね。

そうして病院を「治癒してくれる森」と見立てて、空間デザインのコンセプトを「一本の樹に集う動物たち」として、1階は地面を歩く四本足の動物、2階はリスや猿などの樹上の動物、3階は樹にとまる鳥などとして、動物によって自分がどこの階にいるか分かるようにしました。例えば、「僕はテナガザルの部屋!」とか。自分の居場所だと認識できれば、その病室にも愛着を持つことができますからね。

他にも、子どもの好奇心を刺激する仕掛けをいくつも作っています。例えば診察室の扉に動物のお尻を描いておいて扉を開くと動物の姿全体が分かるようにしておくとか。絵本のページをめくるような手法ですね。次のページに何があるんだろうと思わず見てみたくなるようにしたんです。

また、慣れないところではトイレができなかったりする子も多いため、動物が用を足している絵をトイレの壁に描いておく。看護士さんやお母さんが「ほら、ワンちゃんもやってるよ」と行為を促すことができ、コミュニケーションが生まれています。

岩岡: ストーリーデザインができていると、病院スタッフが動物を増やすこともできそうですね。「ワンちゃんはいるのに、ねこちゃんはいないの?」というリクエストで新しいキャラクターが生まれ、そこにストーリーが追加されたりして。

近森: コミュニケーションが膨らんでいくと面白い。ぜひ、そうなってほしいですね。子ども病院で入院している日々が、ただ単に「病気になって入院した」だけではなく、病院で「成長したんだ」という体験になるといいなと思っています。子どもの成長過程にしっかり寄り添えるような空間に育ってほしいですね。

岩岡: 子どもといえば、NHKの『デザイン「あ」展』の作品もありましたね。

: 「つみき寿司」が好評でしたね。カウンターを作って、子どもが板前さん、親がお客さんになる状況を設計しました。単に積み木でお寿司を作るだけじゃなく、カウンターから「お待ちどぉ」と提供するのが新鮮だったみたいで、展示が終わっても国内外から商品化の問い合わせが殺到しました。これもメディア・テクノロジーを使わない「コミュニケーションを誘発する装置」を作った事例かな。

積み木寿司つみき寿司(Plaplaxサイト

 

近森: 「ミッフィーはどこ?」展では、原画展示ではない方法で絵本の作者ディック・ブルーナの世界を体験してもらうことがテーマでした。そこで建築家と一緒にミッフィーのお家を作ったりしたんです。絵本では平面で描かれている家を建築家自由な想像力で立体空間にしてもらいました。1階建てで煙突のあるお家…と思っていたところが、実はバルコニー付の2階建てだったり、秘密の部屋があったり。加えてインタラクティブな仕掛けを入れて、子どもが積極的にアクションできるようにしています。絵本の世界の中で「遊ぶ」ことを大切にして作っていきましたね。

miffy001 miffy002 miffy004ミッフィーはどこ?(箱根彫刻の森美術館のサイト

 

岩岡: 成田空港のプロジェクトで生まれた歩くスーツケースも面白かったです。

TakeMe
近森: これは、まず成田空港で展示する企画があって、筧くんが「スーツケースが動いていたらいいね」と。それでスーツケースを生き物っぽくしてみたんです。色々考えているうちに、スーツケースの未来の形として、提案できるんじゃないかと。


Take Me! (歩くスーツケース)

岩岡: ペットみたいですね。

近森: プロトタイプをいくつか作りました。街中をモーター駆動で持ち主を追随するタイプ(=シティタイプ)、山道も一緒に歩ける四足歩行タイプとか。これまで山にはバックパックでないと持っていけなかったけど、足をつければスーツケースも連れていける。リゾートタイプもあるんです。カメラとHDを内蔵していて、持ち主が見た旅先の風景をライフログとして残せるんです。家やホテルで本体を横倒しにすると、スーツケースが夢を見ているみたいに映像をプロジェクションするんです。あたかもペットが夢見ているように(笑)。

岩岡: おー素敵な発想ですね。

 

一人ひとりの役割を固定しない
そうすることで自由な発想が生まれる

岩岡: 作品のバランスが絶妙ですが、どうやって発想して着地させているんですか?

近森: 一人じゃなくて数人でやっているから、うまくいくのかもしれないですね。お互いが“感覚的なものから論理的なところまで幅広くカバーできる人”と感じているので。「今日、自分はものすごく感覚的にやってみよう」とか、自分の中で調整することもあるんですよ。例えば、僕が感覚的な言葉だけでしゃべっても、筧くんが「こういうことだよね」と論理的な解釈をプラスしてくれて展開してゆく。だから、スタート地点の広がりも持てるし、ふわっとしたアイデアだけで終わらず、しっかり着地できるんです。

plaplax-chikamori

: 相手の立場に立って発言するメソッドなんかもありますよ。例えば、あるテーマについて、Bさんが“あえて、Aさんの立場に立って”発言してみたり。その時々で役割を変えるんです。

近森: そうそう。“役割を固定しない”のも、僕らのやり方のひとつにありますね。ブレストの段階だけではなく、実制作の段階でも余裕があるときは役割を入れ替えたりします。プログラムが得意な人が大工仕事やってみたりとか。映像専門の人がプログラムを書いてみたり。ジョブチェンジをすると、専門以外のことも分かるようになりますからね。その経験によって、次の仕事の機会で効率もよくなるし、クオリティも上がる。相互的なコミュニケーションをいろんな形でとっていると、ブレストで個人の感覚に基づいて話していても、少し理解が深まるというか。

岩岡: 確かに。新しい発想を引き出すきっかけになるでしょうね。

近森: 僕たちは会社組織ですが、利益を最大化することを目的にしていない。それよりも、自分たちのクリエイションをいかに継続し発展できるかを大事にしているんです。もちろん、経済的にうまく回すことも大事です。でも、それだけじゃダメ。知識やスキルが広がらないと、モチベーションは上げていけないですからね。

岩岡: 無理難題ほど燃える自分がいる、みたいな。

近森: 無理難題じゃなくても、チャレンジポイントをいかに探すか、みたいなことかな。体験をリデザインすることで自分たちの経験値が高まるプロジェクトにチャレンジしていきたいですね。現場で体感したものを次に活かすことが大事。例えばアナログなアプローチができたら、次はそれをデジタルなアプローチに転換していくといった風に。いろいろなものの垣根を越えて、相互に行き来させることに注力したいなと思っています。

岩岡: 他の企業もそういうプローチをどんどんしていけば、面白い発想ができそうです。そうなったら、plaplaxのような集団へのニーズもますます高まっていきそうですね。

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プロフィール

近森基
Motoshi CHIKAMORI
株式会社プラプラックス代表取締役。1971年東京都生まれ。筑波大学大学院芸術研究科修了。影絵や積み木、絵本など、子どもの遊びや玩具をモチーフにしたインタラクティヴな作品を国内外で多数発表する。1998年、第一回文化庁メディア芸術祭デジタルアート・インタラクティブ部門大賞受賞。作品制作と同時に、大学との共同研究,公共空間や商業施設等の演出も手がける。

筧康明
Yasuaki KAKEHI
株式会社プラプラックス取締役。1979年京都府生まれ。2007年 東京大学大学院学際情報学府 博士課程修了。博士(学際情報学)。実世界指向インタラクティヴメディアの研究開発の傍らメディア・アート作品制作を行い、SIGGRAPH、Ars Electronica、文化庁メディア芸術祭などで作品を発表。2004年、NHKデジタルスタジアム年間グランプリなど個人での受賞も多数。慶應義塾大学環境情報学部 准教授としても活動中。http://www.xlab.sfc.keio.ac.jp/