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Technology meets RealSpace Vol.1 デジタルファブ/アプリはリアルな空間にいかに浸透しえるか?

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こんにちは、FabCafe Tokyoのカナオカダイキです。普段はFabCafe Tokyoで、デジタルものづくりのためのソフトウェアやレーザーカッターや3Dプリンタなどのマシンのオペレーション、それらを使ったイベントの企画運営を行っています。大学で建築を専攻していまして、パラメトリックデザインやデジタルファブリケーションを応用した建築や空間作りを学んでいます。この連載では、テクノロジーやアプリケーション、またデジタルものづくりの潮流を背景に、それらがどう空間に浸透し、介入し、新しい空間を作り得るのかを事例を起点に考察し想像してみます。

※Banner Photo from 3D Building Surveys, London + Cotswolds(http://scanlabprojects.co.uk/projects/house)

 

スマフォやアプリがリアル空間の在り方を変えはじめている!?

こんな話を聞きました。

ニューヨークにはチェックイン/アウトを自動化した、フロントが存在しないホテルがあるそうです。アロフトホテルです。

kanaoka_aloft▲ニューヨーク・マンハッタンにあるスターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイド傘下のホテル、アロフト。photo by derrickcollins(flickr/https://www.flickr.com/photos/derrickcollins/5926978150

オンラインで部屋を予約すると自分のスマートフォンでバーチャル・キーが使えるようになり、チェックインして部屋に入るときにはBluetoothを使ってスマートフォンのバーチャルキーをタップすることで開錠ができるという仕組みです。

Bluetoothはデジタルデバイス用の近距離無線規格で、デバイス間の簡単なデータのやり取りをすることができます。あらゆるデジタルデバイスに組み込まれていて、広く普及していることが特徴です。このデータのやり取りをバーチャルキーのアプリケーションとして制御するというわけです。

フロントでのチェックイン/アウトいらずで宿泊ができるシステムは何をもたらすか? バーチャルキーによって、従来、行われていたフロントでの部屋の鍵の受け取りが不要になり、フロントという場そのものも不要になります。

もちろんこのアロフトホテルでの例は突飛な事例でしょう。このシステムが爆発的に広まって、今後世界のホテルからフロントが一掃される、なんてことにはならないはずです。個人的には、長旅を終えてホテルに到着したら、ホテルのフロントで労いの言葉でもかけてもらい、あるいは地元で評判のレストランのひとつやふたつを紹介してもらって会話をしたいもの。いつもとは違う場所に到着したある種の儀式として好きです。

特に歴史あるホテルには、フロントサービスを求める人は多いだろうし、今後もフロントの機能・場と文化は残るでしょう。ただ、ここで言いたいのは、いまや誰もが手にしているスマートフォンなどのデバイスと、「特別な技術がなくても扱えるアプリケーションが浸透し、リアルな世界の空間のあり方を変えはじめている」ことです。

もしかすると(筆者が生きている間には起こらないかもしれないが)ホテルという空間すら現在の常識からはまったく異なったものになるかもしれません。

今は、ホテルという「快適に泊まる=単機能」の空間で起こっているが、それがやがてオフィス、さらに住居という具合に複雑なUXを生み出す空間に波及していくことは、過去の技術革新の歴史を見ても想像できることです。現に、近年のスマート家電などのインターネットを介したUXの再定義は着々と進行しています。つまり、あらゆる空間で起こることです。

古代の人が雨風をしのぐために屋根を作り、建築家や構造家たちが新しい工法を通じて柱を廃し、人々が新しい空間を手にしてきた様に、いまではデジタル技術やデバイスによって、いままでにない空間づくりが広がろうとしています。

 

家具の型紙をダウンロードして出力する時代

最近、3Dプリンターやレーザーカッターという言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。あるいはFAB(ファブ)という言葉を知っている読者もいるかもしれません。

FABとはレーザーカッターや3Dプリンターなどのデジタルファブリケーションマシンを使った今までにないものづくりの潮流を包括的に意味する言葉です。

モノをつくるということは、大変なことです。多くの選択と過程を経なければなりません。

例えば、棚を作るとしましょう。設置する場所の寸法を測り、設計し、適切な材料を選択し、金具を選択し、加工し、組み立てる。

大掛かりなものであれば手作業で正確に加工することはできないから、工場に頼むことになります。そうなると工場とやり取りをするための最低限度の知識や共通言語が必要になってきます。

棚ならまだしも、何か金型がないと作れないようなものになってくると、その金型を作るには数十、場合によっては数百万の資金が必要になってきます。

なにかを本格的に作ろうとしたら、大量生産構造やマーケットの論理を考えなければならなくなるということです。つまり、それを作ったら利益になるのか。商業的にやらざるをえなくなってきます。

ただ、デジタルファブリケーションマシンを使用すると、そこが(少しだけ)楽になります。
デジタルファブリケーションマシンとは、コンピュータ仕掛けのデジタル工作機械のことで、素材を用意したデータの通りに加工してくれるマシンの総称です。

kanaoka_pentagram03kanaoka_pentagram02 kanaoka_pentagram01▲デジタルファブリケーションマシンのひとつ、CNCミリングマシンを使って作られた作品。先端にドリルがついたマシンを2次元的に正確にデータどおりに動かすことで、木材などを正確にカットすることができます。photo by Associated Fabrication(https://www.flickr.com/photos/associatedfabrication/sets/72157622690464162

あなたにデータを作るための少しの知識と時間があれば、何かを作るためにいままで必要とされてきた選択や工程を幾分かジャンプすることができます。トライ&エラーやプロトタイピングをお金や時間をかけなくとも可能になりました。

ちょっとした家具や小物であれば、意外と簡単にモノが作れてしまう。デジタルファブリケーションを用いれば、それ以前と比べると、技術のハードル的にも、時間的な意味でも、よりリニアにアイデアからアウトプットまでがつながるようになることです。

この流れを加速させている事例があります。

オランダの家具メーカーdroog(http://www.droog.com/)は、家具の型紙、つまりはその家具を構成する部材すべてをデータにてインターネット上に公開しています。本プロジェクトは「Design for download」と称され、ユーザーはデータをダウンロードした上で思い思いの材料を調達し、地元にあるデジタルファブリケーションマシンでその家具を作ります。

Droogdroog

milan_11_design_for_download_01photo from Studio Droog :Design for download(http://studio.droog.com/studio/events/design-for-download/

デジタルファブリケーションの普及によって、ものづくりが(少しだけ)便利になるだけではなく、「Design for download」のような今までにないモノの流通形態も現れ始めているといえるでしょう。

 

建築物、ランドスケープ、空間をスキャン「ScanLAB Projects」

3Dスキャニングという言葉をご存知でしょうか。

3Dスキャナーという機器をつかって、空間を3次元的に測定する装置です。測定の方法は赤外線、空間に特殊なパターンを投影しそのパターンをカメラで読み取るなど様々あります。3Dスキャニングを使うと、周りのものや人、空間の3Dデータを取得することが可能になります。

kanaoka_3d-scanning-falstone-show▲3Dデータの例。3Dデータの精度は、使用する3Dスキャナの性能、スキャン対象の形状・素材、距離や位置関係、または光の当たり具合などの周辺環境などの諸条件に依存します。Photo from Scanning Falstone Show(http://www.scanningfalstoneshow.co.uk/falstone-show-2013-map.html

 

3Dプリンティングや、レーザーカッティングなどのアウトプットの環境が身近になってくる中で、そこに至るための考察やデータ作りに応用できるセンシングの技術も着々と発展してきています。こうした技術を使うことで、空間をより具体的なデータとして正確なインプットが可能になり、それを前述したようなデジタルファブリケーションと結びつけることで、アウトプットへの応用も可能です。

似たよな事例として、ScanLAB Projectsを紹介します。

Mattew ShawとWilliam Trossellの2人が主導する、最新の高性能のレーザー3Dスキャナを通じて、様々な空間を切り取る試みです。LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)という技術を用いたもので、レーザーの光束を絞り込み四方八方に照射し、反射光を受け取るまでの時間を以て、光学的に解像度の高いデータを得るという技術です。
ScanLAB_Projects
Photo from ScanLAB Projects(http://scanlabprojects.co.uk/about

LIDARはエアロゾルや雲の粒子の検出など気象学で用いられてきた技術。
精度の高いものであれば、環境が許せば数km先の対象を誤差10cm以下で測定することもできます。

この高精度の3Dスキャナは、周りのものを非常に細かい色のついた点群として3D測定してくれます。この点群データは、一般的な3Dモデリングソフトや、CADで3Dデータ化することが可能です。このScanLABプロジェクトでは、様々な建築物、ランドスケープ、空間をスキャンして、その3Dデータをクラウド上にアップロードしています。

kanaoka_3DBuildingSurveys03 kanaoka_3DBuildingSurveys02 kanaoka_3DBuildingSurveys01▲Photo from 3D Building Surveys, London + Cotswolds(http://scanlabprojects.co.uk/projects/house

私はこのプロジェクトの、”The Falstone Border Shepherds Show 2013”という作品に特に注目しました。英国ノーサンブリアの田舎の村で1885年から行われている、村の農業のお祭りの様子をスキャンした作品です。

kanaoka_3d-scanning-falstone-show01

beer_tent fell_runners▲Photo from Scanning Falstone Show(http://www.scanningfalstoneshow.co.uk/falstone-show-2013-map.html

会場をいくつかのポイントに分けて3Dスキャンしていて、広大な会場の全域の品評のためにテント内に並べられた野菜たち、チャリティーオークションを楽しむ人たちや、ビールを酌み交わすひとたちの様子などを実に精密な3Dデータとして見ることができます。

それらのスキャンされたデータは、写真をみるときに感じられる情報の量とは異質な、単なる量的な差異では言い表せないような、雰囲気だとか空気感のようなものまでを感じます。2次元データででは表現し切れなかった、空間だとか、場の情報の解像度が高いまま内包されています。このような3Dデータは、既存の空間を考え直すインプットのパラメータとして利用することができます。

今後、ある空間の定義が流動的になったり、その空間の機能がリアルタイムに変化するような未来が到来するときには、デバイスやアプリケーション、デジタルファブリケーションでそれらをアウトプットしていくことになるでしょう。このアウトプットのためのインプットとして利用することが期待できます。

3Dスキャニングをはじめとしたセンシング技術やインプット方法、そこにデジタルファブリケーションを使ったアウトプットや、アプリケーションと連動したリニアなものづくりや空間作りが広がれば、今まで見たこともないような空間作りができるでしょう。

今後、こういったテクノロジーはどんどんと身近なものになりつつあり、前述のホテルのフロントのように、リアルな空間に浸透、介入してくることに疑いようはないです。

そのときに、既存の空間の再定義がどのように行われていくのか、探っていきます。

 

 

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カナオカダイキ Daiki Kanaoka

FabCafe Tokyo Fabエンジニア。英・マンチェスター大学で建築を学び、一時日本に帰国。2012年3月よりオープン直後のFabCafeに参加。FabCafeで勤務する傍ら、2014年3月までnoiz architectsに勤務。デジタルファブリケーションやコンピューテーショナルデザインを駆使した建築設計を担当。各種デジタルファブリケーションのマシンの操作や、3Dモデリングを得意とする。FabCafe Tokyo : http://fabcafe.com/tokyo/