UXDE dot Net

Hackers Bar中尾さんインタビュー:ハッカーをうまく悪用するくらいの人に来てもらい

By -

東京は六本木駅そばにある「Hackers Bar(ハッカーズバー)」。お酒を飲みながらハッカーによるプログラミングライブやビジネスメイキングを楽しめるお店だ。その名の通り、近隣のオフィスに勤めるエンジニアやプログラマーの方が多く集い、国内外の有名ハッカーを招いたイベントや、テーマを絞った勉強会などが開かれている。「Hackers Bar」のオーナーであり、医師でもありエンジニアでもある中尾彰宏さんは、どのような想いでこのお店を開いたのだろうか? 国内外のメイカースペースなどで活動経験のあるFabCafeのFabマスターのDaiki Kanaokaがお話を伺いました。

Hackers Bar」はエンジニアと出会える社交の場

カナオカ やはり「Hackers Bar」のお客さんはエンジニアの方が多いんですよね?

中尾 そうですね。HTMLコーディングやWebデザインをやっている人が多いです。最近ではフロントエンドのエンジニアの人がモックアップを持ってきてここで作るというように、それこそFabっぽい感じになりつつあります。でも想定していたほど開発やエンジニアリングをやろうという人は多くなくて、全体の10%ほどです。本当はこれを60%くらいまで持っていきたいんですけど。

カナオカ ここでライブされる方は、どうやって見つけているのですか?

中尾 ホームページで公募しているので、そこから入ってくる方が一番多いです。お客さんが手を挙げてくれるケースもよくありますね。あとは勉強会で知り合って、“僕もやってみたい”ということも結構あったりします。今日は最近はじめた、デザイナーによる「Designer’s Live」という日で、エンジニアリングやプログラミングとはまた違った領域にも挑戦しています。

カナオカ どんなハッカーがここで立っているんですか。

中尾 私の場合は、医師ですが、ハッカーズバーではPHP、Objective-C、JavaScript、Extemporeなどを担当しています。サーバーとクライアントの両方を同時に書いていくスタイルを得意としています。JavaScript(クライアントサイド/サーバーサイド)担当ハッカーAだと、過去にヤフー株式会社にてJavaScript黒帯の称号を得たフロントエンドの第一人者です。他にも日本一のHTMLハッカーBは、ハッカーズバーのハッカーの中で最高速度でタイピングしますね。HTMLとCSSの腕は自他共に認める日本一の存在です。Swift担当のハッカーCは、Swiftを使ったiOSやMacのゲームやアプリケーションのスペシャリスト、といった感じですね。 カナオカ 圧倒的ですね…!僕は個人的に建築がバックグラウンドなので、3Dモデリングの会があれば、やらせてください!…すごくニッチですけど(笑)

中尾 ぜひお願いしたいです。あとはUnityが得意な人にも来てもらいたい。

カナオカ Unityもそうですし、ARやVR系の方が「FabCafe」には結構いらっしゃるので、そういう方を「Hackers Bar」に連れてきてコラボしたいですね。

hackersbar2 ▲ハッカーズバー オーナー 中尾彰宏さん (ハッカーズバー 代表ハッカー) 幼少期よりプログラミングに親しみ、大学時代は遺伝学・バイオインフォマティクスなど分子生物学と情報工学の複合領域での研究を行う。 2006年 宮崎大学医学部卒業後、医師免許取得と同時にWebエンジニアの道へ。株式会社ミクシィへ参画し、日本最大のSNSであったmixiの開発に携わる。 2008年 株式会社ヒメナ・アンド・カンパニーを設立、代表取締役就任。 2008年9月〜2010年9月 比較.com株式会社 取締役最高技術責任者を兼任 2012年ドクターズモバイル株式会社を設立 2014年5月 ハッカーズバーを開業

カナオカ 「Hackers Bar」のコンセプトをまったく知らずに来るお客さんは、どれくらいいますか?

中尾 たぶんほとんどいません。2〜3%くらいじゃないでしょうか。うちは“東京の変なバー”の代表格なので、そういうまとめサイトを見て来る方はいらっしゃいますね。あと外国からの旅行客も多いです。クールジャパンだと思われているみたいで。

カナオカ 「FabCafe」のある渋谷は、意外と学校が多くて学生さんもたくさんいますし、ビジネスマンも多くて多様性があるのですが、中尾さんが六本木という場所を選んだ理由はありますか?

中尾 偶然、このお店が売りに出ていたというだけで、あえてここを選んだというわけではないんです。ただ、六本木で働いているお客さんが多く、IT企業も多いので、その地域性みたいなものはもちろん感じますけどね。そういう方々の会社の垣根を越えた情報交換のコミュニティとしての役割は担えているのかなと思います。

hackersbar3 ▲ハッカーズバー特性カクテル「スパゲッティ」。その他にもハッカーズハイボールなど、ハッカーにちなんだカクテルがたくさん。

カナオカ 同業他社がどういう思考を持っているかを探れるというのは、おもしろいですよね。

中尾 そうですね。当たり前だけど結構びっくりしたのが、意外と“知らない会社の方が多い”ということですね。僕はシステム会社もやっているので、お店に来ていただいたお客さんからその会社のことを知って、僕たちも仕事を依頼することも結構あります。

カナオカ 逆にプロジェクトとして仕事を受けることもあるんですか。

中尾 はい、ある程度は。ただ、受託をドーンと受けたいというつもりはありません。それよりも「Hackers Bar」として、例えば自治体などの広いネットワークでの取り組みに積極的に協力していきたいなと思っています。 hackersbar10 ▲おもむろにPCひらいてコーディングを開始する中尾さん

「Hackers Bar」を悪用するくらい利己的な人に来てもらいたい

カナオカ 「FabCafe」と通じるのが、“実現可能性を探りつつ、プロトタイプングができる”ところだと思うのですが。ここで依頼したら、アプリやウェブサイトのプロトタイプを作ってくれるんですよね?

中尾 はい。お店が開いている間にできることなら、無料でお受けしています。ただ、ここで量産できるわけではないですし、ここで最終プロダクトが作れるわけもないので。でも、一番おもしろいコアな機能は、ここでも作れるはずだと思っています。

カナオカ 「FabCafe」のジレンマとして感じているのが、プロトタイピングを体験として楽しんでもらったあとで、それが後にどうなったのか追いかけたりシェアしにくいというところなんです。つまり、FabCafeでレーザーカットしたものや、3Dプリントされたものがどう実装され、トライアンドエラーがどう続くのかをトラックし辛いということです。

中尾 そうですよね。うちで例えばアプリのデモを作ってあげても、その後どうなったかはわかっていないです。これからはもうちょっと追いかけていきたいですし、最後はちゃんと製品として納品できるところまでを引き受けるようなパターンを増やしていきたいと思っています。

カナオカ バーで起こるこういったコミュケーションから、ちゃんとしたプロジェクトにつなげていくということですか。

中尾 そうですね。小さいものだとこれまでもプロジェクトになったものはあったんです。エンジニアがいない状態のスタートアップで、“とりあえずこれを作りたいんだけど、エンジニアが入るまでの間、プレゼンテーション用のプロトタイプを作って欲しい”みたいな感じで。

カナオカ よりビジネスとしてアウトプットを増やしていきたいということですね。

中尾 はい、もっと極端な成功事例も出していきたいです。

hackersbar0 ▲取材にお伺いした夜は「Designer’s Live」の日。デザイナーの方がPhotoshopのレタッチの技術を披露されていました。

カナオカ それなら、例えば企業のWeb担当者が通い詰めて、ボトル代だけで作ってもらったサイトが流行ったら、面白そうですよね。

中尾 最初はそういう人が現れるだろうと思っていたのですが、実際はなかなか利用してくれる人がいなくて。もっと悪用してくれていいんですけどね(笑)今は言うなればプログラミングの学校みたいになってきてしまっていて。エンジニアリングを学びたい人が通って、いろいろ質問を受けるという。

カナオカ もっと野心のあるお客さんが来て欲しいですか?

中尾 いや、野心というより、利己的な人ですね。「これ、作って〜!」って。利己的な人がある程度いた方が面白いんだろうなと思っています。きっと最終的には困るんですけど、まったく利己的な人がいないよりは、いた方がいい。

hackersbar8 ▲せっかくなので、この取材クルーの写真を、かっこ良くレタッチしていただくことにしました。 出来はこの記事の最後で公開!

カナオカ 「FabCafe」の場合、“Fab”という言葉に“自分で作る”みたいな意味が込められて流通しているので、そこはちょっと違いますね。

中尾 そうですね。「Hackers Bar」は職人さんがいて、頼んだモノを作ってくれるというところがだいぶ違いますね。例えるなら、弁護士事務所やコンサルティングオフィスのようなイメージです。

カナオカ なんか、いいですね。こうやって黙ってプログラミングしているところを見られるのって。でも本当は、もっとこんなものを作ってほしい!って言えばいいんですよね。

中尾 そうですね。でも作ると言っても、なるべくただのホームページの制作に近づかないように気をつけています。見せ物としてわかりやすいので、つい“JavaScriptで何かやる”という方に向いて行ってしまうのですが、みんながそれをやり始めると多様性が失われてしまいます。ほんとのエンジニアリングって、サーバーの中身が目に見えないけど意外と面白いじゃないですか。統計解析とか、モデリングとかって。それを上手にビジュアライズすれば、見せ物になるはずだと思っています。

hackersbar9 ▲デザイナーの手によって、写真がどんどんレタッチされていきます。

カナオカ 「FabCafe」には意外とプログラミングに強い方が少なくて、みんな困っているんですよね。ハードウェアを作る人は、たくさんいるんですけど。

中尾 こっちはハードウェアを作れる人はいないので、いいですね。 カナオカ ぜひ今度Fabミートアップでプレゼンテーションもしてください。一緒にプロジェクトやりましょう!

hackersbar11▲取材クルーの写真は、このようにレタッチされました…!右のクルーは韓国風イケメンとオーダー、左のカナオカはエグザイル風イケメンとオーダー。みなさまも是非、一度足を運んでみられてはいかがでしょうか。

 

クリエイティブ × 人 × ビジネス × 「素材」? 直感的プロトタイピングで空間の未来を考える

image10 

私たちの暮らしはテクノロジーとの結びつきによって日々アップデートされてきています。「こんな電化製品があったらいいな」「こんな仕掛けがあったら便利」性能の向上だけでなく、いかに新しい価値や体験を見出せるかが求められています。しかし、製品の開発は複雑でジャストアイデアでは動かせない……というのは昔の話。ソニーのMESHなら簡単にできてしまうんです。このMESHとロフトワークが新たにオープンさせるコワーキングスペース「FabCafe MTRL」を使って暮らしの「あったらいいな」をその場で実験してみませんか?「FabCafe MTRL」は、2015年12月10日にプレオープンが決まったばかりのコワーキングスペース。先行して12月7日にオープンするMTRL KYOTOとともに、デジタルなものづくりとクリエイターの想像力、そして木材、塗料、電子基板、伝統技術などの”マテリアル”(素材)と、ここに集う人々が掛け合わさったとき、一体どんな未来が生まれるのか?を探求します。今回は、このFabCafe MTRLをいち早く体験いただきながら、IoTのプロトタイピングによって、暮らしの未来を考えるイベントです。当日はMTRLに置かれているマテリアルも、空間自体もご自由にお使いください。ご自分のものをお持ちいただいて、一緒にハックしてみても面白そうです。オープン直後で自由度の高いタイミングだからこそできる空間全体を使った実験で、新しい製品・サービスデザインのヒントを見つけてみませんか?

http://www.loftwork.jp/event/2015/20151217_fabcafeMTRL_mesh/summary.aspx

2015年12月17日(木) 15:30-18:00 (開場 15:15) FabCafe MTRL

 

取材:LAYOUT編集部

構成・文:野本纏花

協力:ハッカーズバー