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岩沢兄弟の空間たし算ひき算〜 Vol.06 FabCafe MTRLの空間の作り方〜音響編

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今回の空間足し算ひき算は、前回に引き続きインタビューをお届け。2016年4月から本格始動を始めた、コワーキング/プロジェクトスペース「FFabCafe MTRL(ファブカフェマテリアル)」。その設計に初期から関わってきた岩沢兄弟(有限会社バッタネイション/内装系は兄、音響・映像機器は弟が担当)に、どのようなことを考えて設計したのか?話を聞きました。前半は、「空間編」と題して設計思想や構築時の秘話を岩沢仁さんにインタビュー。後半となる今回は、「音響編」として音に関する設計を岩沢卓 さんに聞きました。MTRLの話から未来のオフィス音響まで話題は多岐に渡りました。(LAYOUT編集部)

動かせる大型ディスプレイとスピーカーを導入

LAYOUT MTRLでバッタネイションが設計や提案をした部分はどこですか?

卓  音響機器に関して言うと、ミーティングやイベントを行なっているスペースに対して設計をしました。メインの大型モニターには、大きな一輪車が付いているのが特徴で、90度以上の角度で、開く角度を変えたり、モニター裏の面は、ホワイトボードになっているので、半分開けて両サイドで活用したりもできます。
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LAYOUT 音響に関しての設計思想はどのようなものですか?

卓  オーダーを受けたとき決まっていたことは、「大型モニターを置くこと」「イベントを行う場所も兼ねる」ということだったんです。なので、大きなモニターを起点にして、場を設計することを考えました。

当たり前の話なんですけど、モニターって、発光し像が動くものなので、なんとなく目が行きますよね。脇に設置したスピーカーからの音も大きさによって人の意識を向けさせる。
それならば、それらを角度によって、注目させたい時は開いて、そうでなければ閉じて、意識の向けさせ方をコントロールできたら良いのではと考えました。

モニターが付いた壁ごと動かせるようにしたので、壁埋め込みの端子盤も一緒に回転します。モニターが開く方向から考えて、映像や音声端子類は右側に集めました。パネル枠は3Dプリンタで作ったものを使用しています。

LAYOUT スピーカーごと動くのは珍しいかもしれませんね。

そうですね。設備用音響では、天井にスピーカーを埋め込んだり、会場の四隅にスピーカーを固定して置くなどが多いですね。ただ、それでは、積極的なレイアウト変更がしにくくなります。音場コントロールや、ハウリングなどの面では、固定されている方がチューニングはしやすいのですが、、、今回は、シンプルにモニターの面を動かすことで、音が広がったり逆に狭くなったりしますので、使い手と場面に応じた使い方を模索してもらいたいと考えて、このような形になりました。

LAYOUT ワーキングスペースの場合、音響はどのように考えましたか?

卓  音響空間をデザインする時には、音場の統一感をキーワードにすると考えやすいと思います。エリアごとに、わざと響き方を変えてみたりすることで、ちょっとした意識の変化をもたらすことが可能になります。今回は、コワーキングスペースであることから、音の響きを、なるべく複雑にしたいと考えて、ANKH(アンク)という音響調整のユニットを入れています。ガラス、コンクリート、金網など、反射が強かったり、共振しやすかったりする素材が広い面積を占めているので、その間に音響調整ユニットを使用したり、様々な樹種を組み合わせて、家具を作るなど、響きが複雑になるように意識しています。

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LAYOUT アンクは吸音してくれるものですか?

卓  アンクは音を複雑に拡散してくれるんです。林の木が色々な太さをしていることで、自然と良い響きになっているようなものですね。吸音材や防音材なども、場面に合わせて使用しますが、アンクが、この空間には合っていると思いました。ただ、アンクは音響スタジオに導入されていたりと、安いものではないので、単一な面だけでなく、複雑な形の面を作ったり、クッション材、金属、などの複数の素材を使って、音の反射や拡散を調整するのがいいと思います。

LAYOUT MTRLからのオーダーと解決した課題はどのようなコトですか?

卓  前回お話しした、場の設計と繰り返しになるかもしれませんが・・・利用者が「空間をハックできるようにしたい」、とオーダーがありました。
コワーキングスペースですから、デザイナー、プログラマー、ロボット工作などをしている人、バイオ関係のラボを活用している人など、彼らが打合せスペースとして各々使っている姿は想像できます。そこから、それぞれの専門分野を越えて、お互いに“面白そう”“今度こんなことやりたい”という会話が自然発生するような空間になれば、「まず、ここで実験してみよう(ハックしてみよう)」に繋がるのではないかと考えました。

解決方法は、シンプルに「”楽しいこと”が重要」。つまり、空間として「楽しい」を誘発する場作りができれば良いだろうと。イベント使用をメインに考えると、どうしてもステージの発想となると思うんです。そうでなく、小さなブースが集まっている展示会場みたいな空間にしてみたい。アイデアマルシェ・テクノロジーマルシェみたいな。

モニターやスピーカーにしても、大人数のイベントだと音が届かないこともあるものです。しかし、集まって小さなミーティングを行うことが狙いなので、その規模感にしてみました。「じゃあ画面で写してみよう」とか、「プロトタイプやってみよう!」とかは、大きすぎない方がむいているんじゃないかな、というのもあります。

LAYOUT MRTLでは天井にある8個のスピーカーも特徴ですね。

MTRL(補足) これは別の人に導入してもらったんですが、当然、岩沢さんには共有しながら進めています。現状は、飛騨の森の音を流してBGM用ではあるけれど、空間の可能性を広げるツールとしてぜひ、積極的に使ってほしいですね。

卓  8チャンネルサラウンドスピーカーをマルチチャンネルハイレゾ音響用に導入しています。ここは、コンテンツも含め別チームによるものです。せっかくのシステムなので、今後、VR/MRや映像とシンクロして、回転する音の軌跡が視覚化されるコンテンツなどもみてみたいですね。

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音響と空間の関係を考える

LAYOUT バッタネイションでは音響を導入する案件はどんなものがありますか?

卓  常設音響は専門業者もいる分野なので、それほど多くはないですが、柏の葉・KOILでは設備機器の導入を担当しました。

音って、気づいてないけれど、結構ストレスの要因になるんですね。例えば、声を張らないと伝わらない空間よりも、程よい声で話せる音響空間にするとか。隣の会話が聞こえすぎる空間では、話の内容や会議の内容にも影響してきてしまいますよね。

そういった部分を、テクノロジー含めての解決方法で、音響的に補助することが必要と考えています。

LAYOUT オフィスと音の関わり方って未開拓の領域なのかなって思います。議論も進んでいる段階ですがいかがですか?

卓  例えば、光よりも、一回、注目させるのならば音かもしれないですね。BGM一回落として、前に注目させたり、注意喚起ならチャイムとか定番ですよね。

一方で空間にある喧騒音・・・それは、良くも悪くもノイズのようなものの存在が重要だと考えています。オフィスの場合、エアコンやPCのファン、コピー機などいろいろなノイズが鳴っていますから、人間本来のそれらに蓋しようとする本能とのせめぎあいで、ストレスが発生しますよね。

LAYOUT 反対に残響や反射の無い、無音室の圧迫感も相当、気持ち悪いですよね。

卓  耳鳴りがしたり、方向感覚が狂ったり。あそこにいると、日常がいかにノイズで囲まれて、それらを手がかりにしているのかが分かりますよね。騒音の感じ方は、人それぞれで変わるものなので、光量のように作業時に必要な明るさという、基準値は持ちにくいかもしれません。静かでも、まあまあうるさくても、気分によって変わるものでもあるので、答えが出づらいですね。それを踏まえて、オフィスには、心地よい騒音・心地よい喧騒とでも呼べるような、集中が高まるノイズの鳴らし方について考えています。

LAYOUT 最近ではテレカンファレンスもよく行ったりしますが、(他人の)音は耳に残りますよね。

卓  耳に刺さってきますよね。昔は受話器だったので問題ならないんです。今は複数の人が画面みながらマイクとスピーカー使ってなど、コミュニケーション自体が変わっていますね。ブースを作ってあげた方が自然なのか、みんながヘッドセットした方が良いのか、周りの音が程よく入っている方が良いのか。
周りの人がフッとカメラに映り込んだり、会話に参加したりするような、より普通の環境に近くなっていく方向と、明瞭性を高めていく方向と、両方の形でビデオカンファレンスルームやビデオチャットスペースは重要なものになってくると思います。

未来のオフィス音響を想像してみる

LAYOUT 今回、未来のオフィスの音響についても考えを聞きたかったんですね。例えば、先程の話だとヘッドセットみたいなことがでてきてて出勤したらみんな「ガチャっ」って好きな環境を装着するとか。

卓  サイバーパンクみたいな世界ですよね。そのような部分的な音響やテクノロジーという話もありますが…「人が集まることに意味があるんだ」ということを見つめ直すことに興味があります。例えば、人がしゃべる表情であるとか、声、身振りをすべて含めて考える。

それと併せて、僕らが置かれてる情報処理の環境を考える。「電話は、突然入ってくる一方的なコミュニケーションだ」なんて話題が出てたりもしますが、日常生活でも人は、突然話しかけてくるものではあるので、メールやメッセンジャーとの使い分けというか、コミュニケーションがスタートする境目についての議論が、続いたら面白そうですよね。

コミュニケーションの空いた時間や移動時間に処理できるような仕組みをみんなで調整する、それを集めて濃い時間を作ることはできないかな。なんて考えたりします。

データになった“音”は早送りはできるけど、会話がリアルタイムじゃないと、コミュニケーションの時間圧縮が難しいというのが気になっています。まぁ、できるだけ早口で喋るとかかなぁ(笑)

LAYOUT みんな早口でミーティングできないですからね。

卓  つまり、理解を得るまでトータルタイムはなかなか圧縮できない気がするんです。恐らくテクノロジーがサポートできるのが、ゴールが決まってるタスクの処理速度の向上だとすれば、音声をテキスト化してくれることが、参加タイミング違うもの同士の把握スピードを早めるなど。そのような側面でコミュニケーションの変化はありそうです。

LAYOUT 例えば、今だとSiriで付箋をテキスト化することもやったりしますよね。

卓  リアルタイムで文字化され要約されると面白いですよね。その機能の着いたスマフォなども生まれてくるはずで、それが昔よりも現実味を帯びて会議などでも活用されていくと思います。そんな状況で、仕事のスペースがノートPCとデスク一つになってもこれ以上、狭くならないようにしたい。新しいものを作っていくには、積極的に人に会うことも重要だろうから、そういう支援こそテクノロジーとデザインで出来たら楽しそうですよね。

LAYOUT なるほど。会話って決してみんなの像が合わないと思うんです。その他人との体感値の違いをテクノロジーや空間が自動で整理してれる、みたいなことはありそうですよね。

卓  そうですね。記憶とか共有のスタイル自体が変わるんじゃないかなとは思います。空間の役割として、想像できそうなことは、音が担える「テンションをあげる効果」みたいなことはあり得ますね。

例えば、光や音響でパーティー会場やライブ会場みたいなものを演出するとか。会議の発表が終わったら、「うおー!」みたいな歓声ががったり。それをスイッチでなく、自動的に反応して起こるとか、解析してシーンを自動的に変えてくれるとか。そのような、軽いエンターテイメント性が、仕事場に起こると面白いと思います。会議の参加の仕方も変わってくるだろうと思います。
って、後半は、ほぼ未来のオフィス話でしたけど、これで大丈夫ですかね(笑)

取材/構成・文:LAYOUT編集部

 

バッタ☆ネイション 兄:岩沢 仁 Hitoshi Iwasawa

1974年千葉県出身。多摩美術大学卒。空間デザイナー/車輪家具プロデューサー/岩沢仁卓/有限会社バッタ☆ネイション代表。店舗やオフィスなどの空間デザインからイノベーション家具の提案、デザインを手掛ける。旭化成 VEGEUNI DESIGN AWARD 2012 最優秀賞。CINRA / DLE/Loftwork Lab /AOI DC /高気圧/などのオフィス空間を手掛ける。KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)に「車輪家具」を納車。自身でも家具の試作や作業なども行う。

弟:岩沢 卓 Takashi Iwasawa

学⽣時代よりフリーランスとして映像制作/ウェブ制作などの仕事を⾏い、2002年有限会社バッタ☆ネイションを仁とともに設⽴。テレビ番組連動フラッシュサイトの制作や、番組公式サイトの作成などを⼿がける。共著/部分執筆に、『USTREAMビジネス応⽤ハンドブック』『Ustream配信完全ガイド』がある。

Twitter https://twitter.com/battaiwa
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