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岩沢兄弟の空間たし算ひき算〜 Vol.05 FabCafe MTRLの空間の作り方〜空間編

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今回の空間足し算ひき算はインタビューをお届け。2016年4月から本格始動を始めた、コワーキング/プロジェクトスペース「FabCafe MTRL(ファブカフェマテリアル)」。その設計に初期から関わってきた岩沢兄弟(有限会社バッタネイション/内装系は兄、音響は弟が担当)にどのようなことを考えて設計したのか?話を聞きました。前半は、FabCafe MTRLディレクター/マネージャーの小原和也を交え、「空間編」と題して設計思想をや構築時の秘話を岩沢仁さんにインタビューしました。(LAYOUT編集部)

 

自分で考えて作りたい特殊な要望が集まる場になるだろうと考えていました(仁)

LAYOUT はじめに、FabCafe MTRLを作った経緯はどんなものでしたか?

小原 2015年9月に、プロジェクトがはじまりました。僕がFabCafe MTRLを運営してるロフトワークに入社してそのタイミングで構築を任されたんです。この場所(1FがFabCafe Tokyoがあるビルの2F)には、もともと日本を代表する3Dプリンティングサービスの企業であるケイズデザインが入居していて、引っ越した後、場所を引き継いでいます。1Fのカフェも4年経って昼間はカフェで席が埋まり、ものづくりの来客には手狭になりつつあったので、2Fにスペースを増やしたものとなります。

場づくりの担当者として、サービスの設計、機能の設計などすべてを任されて、手探りながら1つ1つ決めてきました。同時にロフトワークが京都支社が引っ越して、「MTRL(マテリアル)」というスペースを作ることが決まっていたので、それに後追いしつつプロジェクトが進行しました。これが、FabCafe MTRLがスタートした経緯なんです。

設計思想は、FabCafeの拡張で、素材=マテリアルを扱うという大まかなものは決まっていました。ただ、今までの客層と利用され方が違うことも予想できたので、まずはサービスデザインの整理とそれを実現する場の設計を同時に考えていきました。
小原和也

▲FabCafe MTRLの初期構築を担当したディレクター、現マネージャーの小原和也

 

LAYOUT サービスを含め全体図が見えたタイミングはいつですか?

小原 正直、全体図ではなかったですね。半年後のオープンという期限があるので、必要なものから揃えていく感じです。設備を具体的に考えはじめて何が必要かがだんだん見えてきました。そこから以前から付き合いがあった、岩沢兄弟(有限会社バッタネイション)に“一緒に考えながら作りましょう”とお誘いして始動しました。

 初期の想定では、FabCafeでコーヒーを飲みながらモノづくりをするという状況が浸透していったことを受けて、さらに作業できる場を構想しました。飛び込みで来て、工作的なカフェでできない作業にも対応できる場ですね。

オーダーはFabCafeの設立者であるロフトワークの諏訪さんから、コワーキング的なもの、時間貸しできる場所とありました。ただ、それもきっちり決まってなく、緩やかな方針でした。逆にその制約が緩いことが、デザイナー・クリエイターとして意見を入れる余白があるので、その都度、僕らが考えたコンテンツと設備を埋めていきながら構築しました。
岩沢仁

▲クリエイティブユニット・バッタネイションにてさまざまな空間プロデュースを行う岩沢仁さん

LAYOUT では、達成したい要件は何に設定していましたか?

 第一に工作できること。きっとコワーキングスペースといっても、いわゆるPCを広げ作業するビジネスマンのコワーキングスペースでなく、自分で考えていろいろ作りたい、やりたい特殊な要望を持つ人たちが集まる場になるだろうと。だからこそ、まずは、使うツールを投げ込むだけでいいと思ったんです。

空間といえばレイアウトを気にしがちですが、仕切りやカウンターを固定することなく、自由に変えることができる空間と決めました。大きなテーブルであっても移動できるし、椅子も机も自由に変わる。空間としての枠組みを設定しておく考え方ですね。工具や素材が置いてある作業スペースがあり、作業場所として不可分なく十分なものにしたいと考えました。

小原 場で起こる活動=コンテンツ面では、FabCafeになかったけど欲しかった素材を準備しておきたい、そこが着想になっています。とにかく素材そろえていくことを考え、追って工作機械も徐々にだけどそろえていくイメージです。

 もともと、僕が空間を設計する場合、人間がここに座れるとか、決められるのが好きではないんです。きちんとレイアウトする考え方がしっくりこなくて苦手なんです。子どもに勉強しなさいとってもやらないじゃないですか。子どもが考えて自発的に学びはじめたときほど、きちんと長続きするみたいな。その法則が空間でも同じだと考えているんです。

小原 素材をクリエイターに積極的に使ってほしい、可能性を探ってほしい、ここが重要だと思っています。じっくりという意味では、単日でスポットというより、プロジェクトとして中長期で使ってもらえる場所にしたい想いがありますね。

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▲FabCafe MTRLの様子が分かるフォトギャラリー。ぜひ一度ご覧になって読み進めください

運営ではプロジェクトで活用することを意識。場所を起点にコミュニティが機能し始める事例も出てきました(小原)

 

LAYOUT 最近、ものづくりできるレンタル工房も増えていますが、それらとの違いはどう考えていますか?

 工房では専門知識が必要です。工作機械を使うためのトレーニングが必要です。FabCafe MTRLはもっと気軽に利用できる場ですね。工房では作業着に着替えたりエプロン付けてと準備がある。ここでは、お茶飲みながら気が向いたら作業できる雰囲気がある。それはFabCafeと同じです。ただその方針も予想なので、初期構築で決めこまず、変えやすいように設計してあります。

チャレンジとしては、他の同様の空間がやってなさそうなことをやる。木目をランダムに継ぐとか、何が違う感じを出しています。窓につけるカウンターの位置は明確に決めていました。あの窓は横断歩道を渡ってくる人とか見えて楽しいですよね。

小原 もう1つのミッションがあって、飛騨から木材を買って活用しています。木を仕入れる手続きからすべてやっていて、大きなテーブルの天板を2枚。小さな机用にも10枚くらい購入しました。結果、それが空間の特徴になっていると思います。

岐阜県・飛騨古川にFabCafe HIDA(運営:飛騨の森でクマは踊る)という第三セクターを株式会社トビムシと共同で立ち上げたタイミングとも重なるんです。そこで扱う、木工の技術、木の素材という着眼があって、それがFabCafe MTRLの“素材を扱う”というコンセプトにもゆるやかに影響しているんです。

一枚板のテーブル木の小型テーブル

LAYOUT コワーキングスペースは個人、FabCafe MTRLはプロジェクトチームでの使用を想定しているそうですが、その方針を意識しはじめたのはいつですか?

 施工の途中で変わったのかな。当初はロッカーを設置するなどの構想もありました。あと、プロジェクトで使うワゴンを導入しようとしたんですが、大きすぎるなとボツになりました。いずれにしろ、徐々に意識が変わっていって今の形に落としこみました。

正直、運営がはじまらないと何が起こるか分かりませんでした。つまり、カフェの機能は無くなってお客さんの使い方がどう変化するのか? 今になって、その結果がやっと分かるようになってきました。

小原 運営が始まってプロジェクトでいかに活用できるか意識しています。それが最近、形になりはじめています。BioClub、Fabミニ四駆などのコミュニティがFabCafe MTRLで作業することが多くなっています。場所を起点にコミュニティが機能しはじめている事例ができてきました。

 

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LAYOUT 構築時の資料にプロジェクトボックスやスーパーの荷出しケージのような稼働家具がありますね。

 ケージは採用に至らなかったのですが、木製のプロジェクトボックスは形になっています。基本の考え方は変わらず、長期滞在の利用者がロッカーを持てばいいと考えてプロトタイピングしました。

1つの箱に机や棚が格納されているので、作業したいところに引きずっていき、自由な形として使えるという設計です。ただ、今になって大きいかなと思っているので、その他のバージョンもどんどん作ってみたいと考えています。

今、利用者が徐々に増えてきたことで見てきたこともありそうですね。その反応を見ながら少しづつ変えていけるといいですね。例えば、プロジェクトボックスも片面をガラス張りにしていて、使わないときは展示ブースとしてみたいなスタイルしたり。

小原 プロジェクトボックスは、すでに活動がはじまっているコミュニティの要望を聞いて作るのもよいかもしれません。

プロジェクトBOX

▲設計時に岩沢さんが描いた企画書からプロジェクトBOXのアイデア

 

 

変わった要素を入れておくと予想もつかない使われ方をして面白い(仁)

LAYOUT 日常の典型的な使われ方を教えてください。

小原 平日はやはりコワーキング利用ですね。夕方からはイベントスペースとして使われます。あとは、10名程度ですが定期契約を結んでいるのでシェアオフィス活用されています。この3つの傾向ができ始めています。オープン時に想定していた通りに、カウンターで午前中に集まって話して、午後から共有スペースに移動して打合せのような、動きが起こっていますね。

利用者同士も、法人契約している数社と個人がお互いにつながりはじめているのが面白いですね。あと、土日はそのコミュニティが主催するようなイベントが開催されることが多いです。

 やっぱり空間ってそういうものだと思うんです。動かせないインフラ以外は、動かせるのがいい。動かせないとストレスがあるんですよ。例えば、住宅であれば依頼主の生活に合わせて作っているからストレスがないんだけど、この場のようにいろいろな人が交じり合う場合、自由度がないとお互いのストレスになると思うんです。招く側が「使いやすい」という反応は成功した証だと思っています。

ワークショップの様子

小原 特にイベントの場合、テーブルが移動できるのがいいですね。大きな机は、足と天板がはずれるので自由に組見合わせできる。稼働できるので使いやすいですね。やはり、80インチのディスプレイは中心にあって、席やテーブルを好きに配列しています。

イベントの様子

▲FabCafe MTRLでは、毎日のように自主勉強会やイベントが開催されている

 

LAYOUT 奥の展示スペースも特徴ですが反応はどうですか?

小原 実は打合せスペースを挟んで反対にあることもあって、なかなかリーチされていないです。ただ、今は展示されているだけのものを、箱を用意して移動できるようにすると状況は変わってくるかもしれません。

 そう。その箱をここで作ればいい。つまり、内装を自作していく発想ができる。余談なのですが、僕たち岩沢兄弟の工房でもレーザーカッターを買いました。実は、FabCafeMTRLの立ち上げを経験して、トライ&エラーできる楽しみを知りました。

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LAYOUT 進行しているプロジェクトはどんなものですか?

小原 大きく3つあって、ロボット、IoT、バイオテクノロジーです。さらに、「触感」に関するプロジェクトも今後、動き出す予定です。

中でもバイオは顕著な動きですね。FabCafeができた当初はデジタルFabが身近な存在になってきたタイミング、今回のFabCafe MTRLはバイオで実験機材なども身近になって、みんなの関心も高まってきたタイミング。それが当たり前なってくるという感覚ですね。

そこで、FabCafe MTRLにもBioLabと称して、顕微鏡、クリーンベンチが置かれた一室を作ることにしました。研究機関は別として、まだバイオプロジェクトに取り組む実験場所がないので、今回、ラボの定義を行いながら作っています。
ロボットワークショップの様子
▲ロボットサービスをデザインするためのハンズオンイベント

 

この取組りは、多くの学術機関の先生にもお世話になってまして、早稲田大学理工学部の岩崎秀雄さん、東京大学の研究員でバイオアーティストのゲオルグ・トレメルさんですね。みなさんの多くは研究所のような機関にいるために、今回のオープン化されたBioLabを面白がってくれています。やはり、FabCafeに関わりのあるクリエイターや様々なバックグラウンドを持つ人のコミュニティと関係できることが魅力みたいです。

 大学内の同じ部屋で、誰とも会わずやっていっていいのかな?と自問がある人が、FabCafe MTRLのような場所で仕事して、さらに違う領域の人やイベントに自然と接することができるのがこの場の価値ですね。

集まる人の属性が全部が決まっている空間を好む人もいます。しかし、そうでない人を集めて“ぐちゃっと”しているところがむしろいいでしょうね。個人的には、ロフトワークの社風を表してると感じています。

小原 最近のBio Clubの活動でもそのようなことが起こりました。現在は、地上最強生物というクマムシ研究会というものを開講しています。実は渋谷やの苔にも生息しているんだけど、採集し飼育する方法など、まだ分かっていないことが多く、素人の研究でも新たな発見があったりして面白いです。クマムシ研究会のイベントをやって驚いたのは、小学生、高校生、プロダクトデザイナー、起業家など、メンバーがとにかく多彩であったことですね。講師を勤めるクマムシ博士の堀川先生も思いつかないようなアイデアが飛び交って、参加した全員が楽しい場でした。

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▲クマムシ博士とともに、クマムシの採集に渋谷の街を探索します。

 

LAYOUT 岩沢兄弟はクリエイターなので、使いたい空間を目指してると感じますね?

 そうですね。ものづくりの現場なので、ある程度の枠組みで十分なんです。実は、場所の設計において、こういう風に設定するとコミュニケーションが生まれて、この動線ができる、みたいなことは想像つくので作れるんですね。ただ、何も決めない空間の方が何が起こるか分からないのがいいんです。それこそ、運営上の一線超えないような仕組みやルールを作るくらいでよいんじゃないかと思っています。

LAYOUT  地図でなくコンパスを!という空間ですよね。非常にニュートラルな感覚で設計しているというか。

 確かにそう。どのように使うみたいな説明が難しいんです。既成概念を取っ払って椅子や机の組み合わせ見つけることも大事なんですよ。例えば、車輪家具はテーブルの形をしているんだけど車輪があることで動かせることを明示しています。まずは使い方を考えてみようというメッセージなんですね。それがクリエイティブを刺激する場面もあると思います。

多分、自分の中に“ああしろこうしろ”と言いたい欲求が無いからかな。自由な方が好き、決め付けがゆるいのが好きなんです。場でも、使い方を決めただけで高圧的なメッセージを発してしまうものです。あと日本っぽいのは、デザインって良いものを右に倣えで同じものを作ってしまう。違う人が作ってるにも関わらず同じものになるの傾向がつまらないと思っています。

 

LAYOUT FabCafe MTRLの捉えどころのない感じはそんな思想だからですね?

 おしゃれな空間にして!と、言われたらとりあえず答えを出すことはできます。でも、それは◯◯っぽくって言葉で、施工屋もそれを理解できるものだと思うんです。

あと、おしゃれって、その空間に似つかわしい人の像を作ってしまう。それが固定化するとつまらなくなるからね。スタバでMacしか開けないとか。今回は、もう少しぐちゃぐちゃにした方が場所の狙いとして良いと考えていました。やはり、変わった要素を入れておくと予想もつかない使われ方をして面白いから。

打合せスペース
LAYOUT 最後に運営者からのメッセージをぜひ!

小原 岩沢さんの設計意図と同じで、多様なメンバーがきて、いろいろなイベントが行われることを心がけて運営しています。このスペースでは毎日話題が変わる、それを実感してもらうのがよいですね。一緒にスペースの使い方を実験してくれるような気分で来場してもらえるとうれしいです。

後編は、音響編と題して、卓さんのインタビューを掲載します。

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岩沢兄弟の空間たし算ひき算〜 Vol.04 ふざけるようにつくる、僕らの発想法

取材/構成・文:LAYOUT編集部

 
バッタ☆ネイション
兄:岩沢 仁 Hitoshi Iwasawa

1974年千葉県出身。多摩美術大学卒。空間デザイナー/車輪家具プロデューサー/岩沢仁卓/有限会社バッタ☆ネイション代表。店舗やオフィスなどの空間デザインからイノベーション家具の提案、デザインを手掛ける。旭化成 VEGEUNI DESIGN AWARD 2012 最優秀賞。CINRA / DLE/Loftwork Lab /AOI DC /高気圧/などのオフィス空間を手掛ける。KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)に「車輪家具」を納車。自身でも家具の試作や作業なども行う。

弟:岩沢 卓 Takashi Iwasawa

学⽣時代よりフリーランスとして映像制作/ウェブ制作などの仕事を⾏い、2002年有限会社バッタ☆ネイションを仁とともに設⽴。テレビ番組連動フラッシュサイトの制作や、番組公式サイトの作成などを⼿がける。共著/部分執筆に、『USTREAMビジネス応⽤ハンドブック』『Ustream配信完全ガイド』がある。

Twitter https://twitter.com/battaiwa
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