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岩沢兄弟の空間たし算ひき算〜 Vol.03 屋台とはなにか?その意味を考えてみました

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今回は、バッタ☆ネイションのお二人が昨年、手がけた一輪車屋台(上のタイトル写真)に着目。LAYOUT編集部では“屋台=空間の稼働”という仮説を元にインタビューを敢行しました。その結果、制作秘話や一輪車であることの意味など、さまざまな考察に展開していきました。さらに、一輪車屋台を作るワークショップのアイデアまで発展させてみました。

 

きっかけは芸術家・栗林隆さんの屋台(YATAI)プロジェクト

LAYOUT まずは、そもそも屋台を作ろうと思ったきっかけは?
 あれは事務所がある中央区のべったら市に出展したものですね。

 もともと屋台作ってみたいという欲求はあったんです。そんな時に栗林隆さんの”Yatai Trip Project​“を知ったんですね。ジョグジャカルタなどで展開している手押し一輪車を屋台とともに旅をするものなんです。それがすごく面白かったので、本人にお会いしたときに、“作ってみていいですか?”って聞いてみたら、“いいよ”と快諾してもらったんです。その後、栗林さんから簡単な図面をもらってそれはラフなものだったけど、そのコンセプトを引き継いて完成させました。

 コンセプトは一輪車であること、それは、自立しないので人力で移動しなければならないという意味があります。一輪車は悪路でも走行性があるので合理的なんです。やはり芸術家が作っているものなのですごく考えてあって、自立しないので人力で移動しなければならない点など、逆にバランスの悪さにおもしろみを感じました。現地で資材を調達してそれで作るところなども面白いですね。

 もう1つ屋台を作りたいきっかけは、loftworkが米国SXSWに出展する際に展示什器を作ったときです。あれは屋台でなく、オカモチ型ですが、移動を伴うもので一緒ですね(写真)。展示会場の業者に準備するとすごく高いのと、自分たちがFabをテーマにした出展だったので、什器も手作りすることにしました。その空間設計をバッタネイションで手がけたんです。

 あの時のポイントは、飛行機の手持ち荷物の制限のなかにおさめるように組み立て式にしたことです。その制限の中で自分たちの目的を満たすものを作るチャレンジですね。正立方体のフレームを重ねて展示台にしたり、椅子にしたりするコンセプトです。

kuribayashi-yatai▲芸術家・栗林隆さんの”Yatai Trip Project​”(takashikuribayashi.comより引用)

 

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sxsw-unit02▲毎年3月にアメリカテキサス州オースティンでミュージック・フィルム・インタラクティブの三本柱で行われるイベントSXSWのブースの様子(2013年参加)。木製の什器は日本で制作して現地に持ち込んだ。背景のボードもコルク製床マットでコンパクトに収納可能

 一輪車やSXSWもそうですが、人が決めたルールに収まって移動できて、それを展開するという発想が面白いと思うんです。ここでは猫車の荷台の面積だったり、機内持ち込みの容積・重量とか。実際に猫車にもいろいろな規格のものがあるんで、安いものなら4000円くらいからと値段も色々、実物見ながらアイデア考えたりしますね。一輪車屋台の材料も特別なものを使うのでなく、リペアのことも考えてホームセンターで買い替えがきくものを意識しながら、えらんでいるんです。

 模倣のしやすさは重要なコンセプトですね。カスタマイズもできる余白があることも自分たちで作ることの面白さだと思うので。実際、プロが本気で屋台つくるとフレームを鉄パイプにすると思うんです。僕らでもそう考えます。ただ、それでは壊れたときにユーザー側で修繕するのが大変だったり、簡単に改造しにくい気がして。

 自立にしても、足をはさんでストッパーをいれたり。そんな手作りの工夫がされているのもいいんです。

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移動できる屋台は持ち込んだ空間を拡張させる

LAYOUT 作っていく過程で、制約とか意識したことはありましたか?

 今回に関しては、その後の展開を考えていたわけではないので、水平のバランスと製品の精度を保つことを意識してやっていました。もっと、模倣やそのプロジェクト化を考えるなら、ガイドラインも作るような作業があると思います。作りやすさでいうとNC加工(木材の自動加工)で再現できるデータにまで落とし込みを行うなどのやり方もありますね。ちなみに、SXSWの什器ではNC加工を駆使して作っています。

 出来という意味では技工の問題もあるので、作る人によると思うんですが、、、そこにこだわるより、出来たものをどんどん使いやすく直してみんなで作っていくという感覚を大切にしたい狙いもありました。

 パーツは切ってあって、番号で合わせて、だれでも作れるパーツキットという考え方にいくと製品化してしまう。それは複製であって、模倣ではないんですね。模倣の段階でなんとなくこれでいいかなとか、思いもよらない無茶苦茶さとか面白いと思うんです。もちろん、自分たちが作るとうれしいと思うから。

LAYOUT では、屋台という空間についてどんなことを考えていましたか?

 コミュニケーションを活発にする装置でありたいと考えてます。僕らが手がける車輪家具も、展示什器もそうなんですが、移動させることで次の行動が予見できるモノであると、コミュニケーションを生むきっかけになると考えているんです。例えば、ホワイトボードに車輪をつけると、移動させてそこで議論が始まる感覚。

 空間を拡張させる屋台は、4面が広がるのが特徴ですよね。しかも、1面を壁につけるとシーンが変わったり、取り囲んで3、4名で話す空間がその場に展開する。

LAYOUT テーブルでも同じようなことが言える気がしますが、それはどうですか?

 テーブルを持ち出すのと屋台は違うことだと考えています。屋台の柱にポイントがあるんです。四方に立つ柱がシーンを作るんです。試しに細い柱でもその後ろに隠れてみてください。違う空間がに自分がいるような感覚をすぐに実現できるんです。実際の距離感と全然違うもの。使用者にとっての“空間の拡張”も屋台ならではですよね。

 誰もが関与できる楽しさってあると思います。移動できるってことはそこに自分の好きな空間を簡単に作ることができる。これは屋台に限らず、車輪家具全般の話にも似ていますが。

 仕事で空間を設計してとオーダーされたとき、電源やLANやライトなどで固定されてしまう感覚が好きじゃないです。施工主は「きちっと用意しないと不便」と心配されることも多いですが、僕らとしては”どうにかなるものですよ”というのが内心あったりします。もちろん、綺麗にレイアウトして、椅子の可動範囲はこの領域で、長さはいくつでと緻密に設計することもできます。ただ、その場にいる人が空間をもっと考えるきっかけになるんです。その心の変化も重要だと思っています。

 その空間を構成するメンバーや目的に合わせて使い方を変化しやすくしていくこと。作業に適した空間。アイデアを出したいときの空間とか、もしかすると天候とか気温とか、いろいろあるものです。

LAYOUT それは世の中でいうところの“フリーアドレス”とも違いますよね?

 あれはマス目に入るので自由ではないですよね。多くの場合、距離感を自由に設定できることもないですから。

 集中できる角度は自分で決めればいい、それを許さない空間は多いものです。作る側としては、かっこよくしすぎないとか、自分たちなりのセオリーもあったりします。施工主の意図って訪れた人にはすごく伝わるものですから。それを感じた瞬間、それに適した自分を演じなければならないので、リラックスできなきわけで居心地の悪さを産んだりもしますよね。

 自分でもデザインしますが、デザインされ過ぎている空間は苦手なんです。一輪車屋台の話にも通じるのは、その辺りの感覚ですね。

屋台は祭りのやぐらの機能に近い

LAYOUT 屋台は自宅の心地良さを持ち出す感覚に近いんですかね・・・

 その感覚は野外フェスのテントに近いかもしれません。僕らにはノウハウはないところですね。自宅というキーワードは意識して無かったですね。

 屋台の場合、門があって、枠がある。そこにもてなしの感覚があるんです。相手がいて、入ってくるひとが入れ代わり立ち代わりという特徴もありますよね。だから、自宅の再現というよりは、庭先に近いと思います。なので、自分の趣味の一番いいところを切り出す感じにも似ています。

 これも移動と拡張の話に近いんですが、屋台を持ってくることは違和感を持ち込むことだと思うんです。カッコい言い方をすると、空間を切り裂くんです。そこで、羽を広げてくるような感覚で意味合いが発生してくる。先のテーブル1つとの違いで、テーブルの場合、演者の能力に空間が依存している状態ですね。屋台の場合それが機能をもっていることが多いので、適当な距離感で参加できるわけです。

LAYOUT 料理屋台は一般的ですが、他のものがあると違和感がありそうですね。

 ウォーターサーバーに車ついて引っ張ってくるあだけでもコミュニケーションしやすくなるわけですから。少し思ったのが、盆踊りの櫓(やぐら)に近いかもしれません。背が高くて周りを参加者がぐるぐる好きに踊っている、そして、櫓のプレイヤーも交代できる。

 内側と外側が入れ替わり状態になる。さらに外から見ているだけの人もいる。屋台が来ることでメッセージが空間に届けられ、結果、外の人にもアクションしている状態ですね。

LAYOUT さて、今回はこの屋台をワークショップで作ってみるのが面白いと考えています。そこでのポイントは何になりそうですか?

 テーマが防災でも、お祭りでも、広げることが面白いですね。それは場所とシチュエーションを伴うもので、オフグリッドに展開していく感覚の面白さがあると思います。あとは、僕らもやってないので、車輪のダイナモで自家発電できる機能もつけてみたいですね。

 屋台の真ん中をどう利用するかですね。あとは、一輪車にはこだわりがあって、先に言ったとおり自分たちで工夫する余白がある。その不完全さが愛されるかなと。さらに、使ってもらって修繕して使われ続けることも面白いですから。柱の傷で過去の経験を懐かしむ感覚というか、そういうものができればうれしいですね。

 これをきっかけに僕らもガイドラインを考えていける気がします。

 

 

バッタ☆ネイション×LAYOUT

一輪車屋台のワークショップを2015/4/24開催!

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インタビューにも登場した、一輪車屋台を妄想して形にしていくプロジェクトです。アイデーションからプロトタイプを作ります。固定概念を捨てて、空間とコミュニケーションのあり方を考察してみましょう。DAY01のゲストは、デイリーポータルZの編集長・林雄司さん。さまざまなアイデアを展開しています。今後、一定期間をかけて屋台制作プロジェクト、屋台イベントなども計画しています!

http://opencu.com/events/yatai-make

日 時
2015年4月21日<DAY1>
2015年4月28日<DAY2> ※予備日
19:30-21:30 [OP19:45]

場 所
loftwork lab 10F(渋谷・道玄坂)

参加費
2,500円(材料費/ドリンク代付き)
企 画
LAYOUT,バッタ☆ネイション
協 力
OpenCU,FabCafe Tokyo

 

 

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取材/構成・文:LAYOUT編集部

 

バッタ☆ネイション

兄:岩沢 仁 Hitoshi Iwasawa
1974年千葉県出身。多摩美術大学卒。空間デザイナー/車輪家具プロデューサー/岩沢仁卓/有限会社バッタ☆ネイション代表。店舗やオフィスなどの空間デザインからイノベーション家具の提案、デザインを手掛ける。旭化成 VEGEUNI DESIGN AWARD 2012 最優秀賞。CINRA / DLE/Loftwork Lab /AOI DC /高気圧/などのオフィス空間を手掛ける。KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)に「車輪家具」を納車。自身でも家具の試作や作業なども行う。

弟:岩沢 卓 Takashi Iwasawa
学⽣時代よりフリーランスとして映像制作/ウェブ制作などの仕事を⾏い、2002年有限会社バッタ☆ネイションを仁とともに設⽴。テレビ番組連動フラッシュサイトの制作や、番組公式サイトの作成などを⼿がける。共著/部分執筆に、『USTREAMビジネス応⽤ハンドブック』『Ustream配信完全ガイド』がある。
Twitter https://twitter.com/battaiwa
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