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理念と現場を繋ぐ場面を編集する〜藤代健介『アーキテクトを探せ!』イベントレポート

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ゲストとの刺激的なトークセッションを通じて、“これからのアーキテクト像”を描いてみようという新たな試み「アーキテクトを探せ!」。2015年2月3日に開かれた第2回の模様をお届けします。

今回のゲストは株式会社prsmで「場のデザインコンサルタント」として活躍されている、藤代健介さんです。東京理科大学理工学部で建築学を学び、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科でサービスデザイン学を学んでこられた藤代さんは、世界経済フォーラム(通称ダボス会議)のGlobal Shapers Community にも選出されています。

今回もモクチン企画の連勇太朗さんとFabCafeの岩岡孝太郎をキュレーターに、藤代さんのお仕事や考え方を伺いながら、“これからのアーキテクト像”を紐解いていきます。

 

理念と現場を繋ぐコンパスを作るのが仕事

まずは藤代さんのお仕事について、プレゼンテーションが行われました。

建物をつくる時のステークホルダーには、クライアント(=建てる人・お金を出す人)と建築家、現場のスタッフなど(=現場で形にする人)がいます。2者の間には、必ずギャップがあるという藤代さん。それはクライアントの「なぜ作りたいのか(=WHY)」の思いや理念を、現場の建築家が「どうやって形にするか(=HOW)」に重きを置いて応えようとするが故に生まれるものだと言います。

こうしたギャップを抱えたままでは、「かっこいい建築はできても、思いが実現された場所になってはいないのではないか」と疑問に感じて、その間をつなぐ「場面(=WHAT)」をつくることで理念と現場を繋ぐ、つまりクライアントの理念を誰にでもわかる形に変えて、建築家や現場のスタッフにどんな形で応えてほしいかを伝える“翻訳家”のようなお仕事をされているのだそうです。

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藤代さんは、大規模開発を扱う大手企業のブレーンとして、組織内のモチベーションやコミュニケーションの整理をすることで、会社の理念を現場のひとりひとりが何をすべきかへ変換していきます。

「場面は“場”と“面”。場所と時がクロスした、“いま、ここ”のことです。そこでどう人が変わるかを描いたシーンをゴールとして設定できれば、具体的な方策はたくさん出てきます。“I make you happy.”というSVOCの第五文型のように、Oの人をCにする場面を体現するときにこそ、クライアントの思いは実現する。理念と現場を結ぶためのコンパスを作るのが、ぼくの仕事です」(藤代さん)

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プレゼンを受け、キュレーターの二人からさまざまな問いかけが行われました。

 提案ではクライアントを交えたワークショップ形式でやることもあるんですか?

藤代 ワークショップは「アイデアを発散させる」のと「モチベーションを上げる」には有効だと思います。ただ「収束させる」のと「編集する」機能がないので、使うタイミングを選んでいます。プロセスの7割くらいは、クライアントのビジョンを翻訳したり、Oの候補の人たちにインタビューをして、ニーズを抽出したりします。

 クライアントの思いって、夢が膨らんで予算が足りなくなりがちですが、そこのさじ加減は建築家の仕事ですか?

藤代 なんとなく見えていますので、僕が抑えることがあります。僕の納品物はビジュアライズした本なので、それをコンパスにしながらクライアントと建築家をつないで終わるときもあれば、プロジェクトマネージャーとして継続して係ることもあります。

岩岡 “場のデザインコンサルタント”は、どこの工程まで見届けるものなんですか?

藤代 誤解を恐れずに言えば、見届けません。それはHOWの話なので実現する人にお任せします。コンサルは、他者の目線をキープして、きちんと機能させることなんですよね。

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▶最も大事なのは、そこに「いる」か「いない」か

後半は恒例の「アーキテクトを探せ!」ボードを使った質疑応答です。藤代さんが選んだ番号の裏に書かれた質問に、ランダムに答えてもらいます。

Q.最近、興味のあることを教えてください

藤代 場の実験ですね。今は祐天寺で「PROTO」という4階建てのビルを半年間限定で借りて、仲間を集めて運営しています。そこで「住む」、「働く」、「過ごす」、「集まる」という機能を集約させながら、「人が人生においてのプロトタイプができる場所と機会の創造」をしています。そういう機能とコンセプトを持った上で“場の力ってなんだろう、コミュニティってなんだろう”っていうのを実験しています。なかなか大変です(笑)。

Q.新しいアーキテクト像とは?

 そもそもアーキテクトの意識ってありますか?

藤代 アーキテクトは、強いビジョンを持って、“世界はこうなるべきだ”というビジョンをビジュアル化して、理論的な説明を加えられる人だと思うんです。その定義で言えば、僕は自分の意識を薄めようとしているので、今はアーキテクトじゃないと思っています。

 ビジョンを提示する方に憧れはありますか?

藤代 今のフェーズじゃないかなと思っているので、憧れも今はありません。

Q.空間って、なんですか?

藤代 培養液ですね。OがCになるときに浸っているものなので。人の会話とか、アクションとかに対して、弱くても常に影響を与え続けているもの。音とか光とか材料も含めて。かっこいい建築とか、僕個人としてはあまり本質的ではないと思います。重要なのは、心のアフォーダンスみたいなところですね。

 「空間」と「場」の違いって、なんですか?

藤代 最も大事なのは、そこに「いる」か「いない」か。「いる」ことに対する定義は場ですし、「いついる」かが、場面です。それに対して、「どう付加価値」をつけるかが空間ですね。

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Q.職業病だなと思う瞬間は?

藤代 あんまりないですけど、時間があれば「体験する」ことをなんでもやっています。なぜ"体験にこだわるかというと、一次情報だから。それを文章や写真にした瞬間に、二次情報になって、圧倒的な違いがあるんですよ。一次情報を体験したかどうかって、その人の経験の深さや解析力・分析力にすべてつながるんですよね。言語化できない何かが得られると分かっているので、ひたすら体験しています。

▶インタビューでちゃんと見つけるべきなのは“心のツボ”

最後に会場からの質問に藤代さんが答えます。

参加者 行政との仕事は受けていらっしゃいますか?

藤代 今のところないですが、今仕事をしているのが日本において最大手の企業だったりするなので、10年後も同じことをやっているのかと言われると、もう一歩、二歩、先があるのかなと予想しています。ガバメントもそうですが、世界を視野に入れると、世界における日本をどうするかっていう政治家のブレーンみたいな仕事もあるのかなと。思考のアーキテクチャーとしてのソリューションが場面だと思っているので、“あるべき東京”としての場面を作るとかはできると思っています。コンサルタントなので、ひとりで切り込んでいける。どのスケールにも対応できることが強みの一つだと思っています。

参加者 サービスデザインの勉強をしていて、たくさんの人の意見を吸い上げるのが大事だと思っているのですが、藤代さんは一緒に作るより分析していらっしゃるのかなと感じました。俯瞰する視点と経験に寄り添うところのギャップはどうやって埋めていけますか?

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藤代 これはスタンスの問題ですが、僕はインタビューの対象となる人は答えを持つべきではないと思っています。インタビューでちゃんと見つけるべきなのは、“心のツボ”ですね。表情とか話し方もすべて一次情報なので、必ず自分でインタビューをします。意見を吸い上げることはしません。住民のモチベーションをあげて、アンバサダーになってもらうために、そういう目的でやることはありますけど、あくまでも答えを聞くのではないです。

最後に、藤代さんのアーキテクト認定式が行われました。

「藤代さんはご自身はアーキテクトだと思っていないそうなので、どうしようかな…」とためらう連さんに対し、「なります。今日から名乗ります(笑)コンサルタントと対極にあるわけではないと思いますし」と答え、無事ロフトワークの長者原からトロフィーとオリジナルTシャツが授与されることになりました。

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「2回目にして、いきなり建築じゃない人を呼びましたが、藤代さんの発想は随所に建築的な発想がちりばめられていました。僕は自分のビジョンを入れていきたい人間なので、藤代さんのように透明な存在になるという考え方は新鮮でした」と語る連さん。

次回はどんなゲストが訪れるのでしょうか?第三回「アーキテクトを探せ!」の開催を、どうぞお楽しみに!

 

連コメント
「アーキテクトを探せ!」のイベントらしくザ建築家ではなく、デザインコンサルタントをおよびするという第二回目となりました。藤代さん自身はアーキテクトだという意識は現時点では強く持っていないとおっしゃっていましたが、建築を学んだことだけあって、実践の背景にロジックを重ねながら物事を説明する姿勢はとても建築的だなと思いました。また、実際の体験や経験に重きを置く姿勢や、建築にとどまらずマーケティングやサービスデザインの領域まで幅広い知識を統合しながらコンサルティングという業務そのものを再定義していくような方法論はとても新鮮でした。発表できない仕事も多くされているそうですが、そのうち、世の中の誰もが知っているプロジェクトの裏方を組み立てたアーキテクトとして再会できる瞬間が楽しみです。

 

構成:LAYOUT 編集部
テキスト:野本 纏花(@nomado617)