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建物のタイポロジー(類型学)を意識した設計〜千葉元生『アーキテクトを探せ!』イベントレポート

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ゲストとの刺激的なトークセッションを通じて、これからのアーキテクト像を描いてみようという新たな試み「アーキテクトを探せ!」。2016年5月16日に開かれた第5回の模様をお届けします。

今回のゲストは、建築という枠にとらわれず独創的な活動を展開している、新進気鋭の建築チーム「ツバメアーキテクツ」の千葉元生さんです。原点には学生時代の窓の研究があるという千葉さん。建築の外と中をつなぐ窓には、どんなストーリーが秘められているのでしょうか。

モクチン企画の連勇太朗さんとFabCafeの岩岡幸太郎をキュレーターに迎えて、千葉さんのお仕事や考え方を伺いながら、これからのアーキテクト像に迫ります。

 

ヒト・モノ・コトのネットワークを生み出すツバメアーキテクツ

 

まずは千葉さんのお仕事について紹介がありました。

千葉さんが所属するツバメアーキテクツは、山道拓人さん・西川日満里さん・石榑督和さんの計4名が所属しており、建築や内装の設計といった空間構成を担う「Design」と、空間が成立する前の枠組みや完成後の使い方を思考し、研究やまちづくりといった社会構築を行う「Lab」の2つの部門から成り立っているのが特徴です。

1ツバメアーキテクト組織図

そしてこちらは千葉さんたちの考え方を表す一つの事例、ベトナムのホイヤンにある商店です。千葉さんと山道さんが研究室のリサーチで学生時代に訪れたホイヤンは、壁を両側の建物と共有しているタウンハウスという形式の建物が並んでいるのだそう。

2ベトナムの商店ベトナムのホイヤンにある商店(千葉さんのスライドより)

「ベトナムのホイヤンは、タウンハウスが反復する美しい街です。各タウンハウスは日差しを遮るためか壁がセットバックして設けられ、そこに風を通すルーバー状の窓が設けられています。この事例では、こうした気候条件によって生まれた建築の要素を上手く使って、商品を陳列していたり、滞在できる椅子が置いてあったりとそこに暮らす人々の知恵を読み取れます。僕たちはこうした様々な条件の中で成立してきた建築の類型と、そこで暮らす人々の実践の両方から学んで建物をつくりたいといつも考えています。」(千葉さん)

会場の様子
次に、ツバメアーキテクツのプロジェクトが紹介されました。

<旬八青果店>

ビルの1Fにある「旬八青果店」は、目の前にバス停という好立地。バックヤードを大きく取っているため、店内が狭くなっていますが、これによって野菜が道に溢れるように陳列されたり、道の延長のように立ち寄れたりと、店と道の境界を曖昧にしたという千葉さん。ヒトやモノが入った後の空間をイメージして、壁とキッチンカウンターを作ったそうです。

3旬八青果店そしてこちらがリフォーム後の旬八青果店の図。普通の建築の図面と違い、ヒトの活動やモノの配置を盛り込んで、ネットワーク状につながるイメージが描かれています。

4旬八青果店構造

<朝日メディアラボ>

「朝日メディアラボ」は、朝日新聞が新聞業務以外のことをやろうと生まれた新しい部署。若い人たちとコラボしたいという狙いから渋谷に新しいオフィスを作ることになったのだそう。

「新しい部署なので、どんなオフィスにしたいのか見えておらず、コンペの要綱も明確ではありませんでした」(千葉さん)

そこでツバメアーキテクツが提案したのは、ギリシャのアテネで採用されていた街の形式「アゴラ」を模したデザインです。

5アゴラ

アゴラとは、図の赤い部分のこと。ギリシャ人は神殿で真面目な議論をした後、このアゴラと呼ばれる広場に出てきて、お酒を飲みながら談話をしていたのだそうです。概念的にこうしたギリシャの街の作り方をオフィスに転用できるのではないかと考えた千葉さんは、プレゼンで机やベッドなどのエレメントを提案して、これを配置するという設計の手法を提案しました。

6朝日新聞メディアラボ家具

結果、ツバメアーキテクツのプレゼンが採用され、完成したのがこちらのオフィス。

6-1朝日新聞メディアラボ 6-2朝日新聞メディアラボ

ヒトが固定的に集まる和室やベンチを外側に配置して、内側は可動式のテーブルによってシーンに応じた広場が作られるようになっています。「どこでも仕事ができるOAフロアのようなユニバーサルデザインではなく、ヒトの拠り所になる家具を散在させることで、逆に自由な使い方が展開できるのではないかと考えました」(千葉さん)

<蔀戸の家>

次は個人邸宅の2階部分を2世帯住宅にするためにリフォームするという案件。設計した部屋は唯一道路に面する部屋だったため、できるだけ外とのつながりを持てるような居場所を作ってあげたいというコンセプトで生まれたお部屋がこちらです。

7-1蔀戸の家©Kenta Hasegawa

ユニークな窓は西日を避けるための二重構造に。蔀戸(しとみど)という窓を採用し、窓の両側は収納、二枚の窓の間はベンチになっています。窓を開けると昼間は道路の様子が反射で映り外の様子を感じることができ、夜は閉めても中の様子がシルエットとして浮かび上がります。なるべく、中や外の気配を感じられるような部屋にしたかったとのこと。夜は内側の窓が照明になるというオシャレな仕掛けも。

7-2蔀戸の家©Kenta Hasegawa

<阿蘇草原情報館>

阿蘇草原情報館は阿蘇の草原を守るために作られた施設で、右は環境省が作った施設で、左が阿蘇市の管轄する建物になっています。ツバメアーキテクツが手がけたのは、こちらの左側の施設。観光案内の役割を担う受付と、草原を守るNPO団体のオフィスが2つに加え、ワークショップができるスペースが設けられています。

8-1阿蘇草原情報館©Kenta Hasegawa

「田園の中に建っている建物なので、周囲に立っているビニールハウスなどの建物になぞらえて農事型のデザインを施すと同時に、広場との建物の関係性を考えて、日本の桂離宮のような雁行型の建築様式をミックスした作りにしました」(千葉さん)

8-2阿蘇草原情報館©Kenta Hasegawa

完成した阿蘇草原情報館は、屋根の隆起が周りの山並みと見事に調和した外観に。外輪山と呼ばれる阿蘇の山々と、内側の阿蘇の街をつなぐ機能を備えた施設ができあがりました。

<荻窪家族プロジェクト>

荻窪家族プロジェクトは、モクチン企画の連さんのお父さんで、建築家の連健夫さんとともに、千葉さんが手がけたお仕事です。連さんが設計した多世代型シェアハウスを、より若い人や地域に開かれた建物にするために、工事が始まった段階でツバメアーキテクツに声がかかりました。

9-1荻窪家族プロジェクト
そこで千葉さんが提案したのが、建物が完成する前にリノベーションをしてしまおうという《事前リノベーション》です。人を入れ替えながら3分間ずつアイデアを出し合うフォークダンス形式のブレインストーミングから始まり、様々な形式を取り入れながら“この建物をどうやって使うか・そのために何が必要か”をテーマに計7回のワークショップを開いた千葉さん。都度、参加者から集まったアイデアを精査して、なるべく無理のないアイデアを取り入れたり、現実的なアイデアに落とし込んだりしながら、連さんの設計の内容に付け足していきました。

9-2荻窪家族プロジェクト

こうして完成した建物には、道具をかけられる有孔ボードの壁がある工房や、太極拳をしたい人が使えるミラーのある部屋、子どもが落書きできる場所など、ユニークな要素が盛りだくさん。新築なのに、リノベーションした後のような状態に仕上がりました。

<高島平の寄合所>

東京都板橋区にある高島平団地。すでに半数以上を高齢者が占めていますが、ここで育った施主さんから「地域に恩返ししたい」と依頼が持ち込まれました。具体的にはお年寄りが集まれるコミュニティースペースが作りたいという施主さん。しかし場所がありません。

10-1高島平の寄合所

そこで千葉さんが目をつけたのが、施主さんの旦那さんが営む炭火焼居酒屋「Jo」。昼間のお店が使っていない時間をコミュニティースペースとして活用できないかと考えたのです。

10-2高島平の寄合所

そうして改修された結果が、こちら。タイムシェアの考え方を取り入れ、左側が主にコミュニティースペースとして使う場所で、右側が主に居酒屋として使う場所になっており、昼から夜にかけて時間の経過とともに属性の違う人々が混じり合う場所が生まれました。

「僕らはいろんなプロジェクトに携わっているのですが、共通するのはヒト・モノ・コトのそれぞれの解像度を上げながら、これらのネットワークを生み出していくことなのかなと、最近考えているところです」(千葉さん)

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※画像クリックで拡大できます。

 

 千葉さんのお話の中で、何度か“形式”という言葉が出てきていましたが、もう少し補足してもらえますか?

千葉 これは僕と山道の師である塚本由晴さんから学んだことですが、建物のタイポロジー(類型学)を意識して設計しています。建物はその土地によって、同じような条件や問題を共有しながら、置かれた環境に対してある均衡状態をつくって成立しています。例えば、細長い作りの町家には、光や風を取り込むための坪庭があるといった具合です。そこには昔から住んでいるヒトが積み重ねてきた知恵がつまっていると思うので、なるべくそこから学んで展開するような考え方をしたいと思っています。

クロストーク

 

世界の街並みの観察がアイデアの種になる

イベントの後半は「アーキテクトを探せ!」恒例のボードを使った質疑応答です。千葉さんが自ら選んだ番号の裏に書かれた質問に答えていただきました。

Q.活動における自分ルールを教えてください。

千葉 僕らはチームでやっているので、なるべく一人の考えに寄らないよう、常に議論し続けるというのは、僕だけでなくみんながルールにしている気がします。

 ツバメアーキテクツの中は「DESIGN」と「LAB」で担当が分かれているんですか?

千葉 明確な担当はありません。思いとしては、建築家って建物を作る前にリサーチやワークショップをやることが多いのに、そこはあまり価値として認められないんですよね。特に荻窪家族プロジェクトなんかは、そこがメインの仕事でした。そこの部分だけでも仕事として請けられるような体制にしたくて。今の段階では、全員が
「DESIGN」も「LAB」もやっている状態です。

Q.予算を度外視して何かを作ってもいいと言われたら、何を作りますか?

千葉 機能を持たない無駄な部分を作りたいです。例えばでっかいパーゴラ(藤棚のようなもの)など。そういう無駄な部分って、予算の関係上、最初に削除されがちなんでけど、実は全然無駄じゃなくて重要だったりすることが多いと思うんです。

chiba

Q.職業病だなと思う瞬間は?

千葉 すごく街を見ますね。学生時代にフィールドワーク的なリサーチをよくやっていたので、街並みを見ながら、建物をうまく使っているところをよく見つけられるようになってきたなと思っています。

 街の中で何に注目すればいいですか?

千葉 ひとつは、反復しているものをよく見ていると思います。窓とか建物の類型とか、反復しているものやそこでの差異を観察すると、その場所のことがよくわかってくると思います。あと日本は独特の法規があるので、吉村靖孝さんの『超合法建築』じゃないですけど、法律という切り口で見ると街が法律でできているように見えてくる。複雑な条件が組み合わさって建物が今その状態にあるというのが面白いので、いろんな“メガネ”を通して見てみるというのがコツかもしれないです。

 アゴラとか桂離宮って、リサーチして見つけてくるんですか?それとも今までの経験から?

千葉 わりと思いつきですね。調べるときもありますけど、そのときに使わなくても次に使えそうかもっていうのがちょっとずつストックとして溜まっているかもしれない…溜まっているといいなと思っています。

Q.新しいアーキテクト像と聞いて、連想することは?

千葉 建築は建物をつくることだけが目的じゃないところが面白いと思うので、新しいアーキテクトは実際にモノができなかったとしても場所を整えられる人。空間的なモノを扱いながらも、必ずしもそれが物理的な何かである必要はないというか。ネットワークを作るようなことが新しいアーキテクト像につながるのかなと思っています。

 

最後に、千葉さんのアーキテクト認定式が行われました。

「ふつう建築家は、最後の建物の設計をすると思いますが、千葉さんは建物を設計する前の段階から、ヒト・モノ・コトを並列に扱って編集していて、実際のアウトプットも建物だけでなく場や空間の先にある関係性まで図として示しているところが、すごいアーキテクトだなと思いましたので、5人目のアーキテクトとして認定したいと思います」と連さんから総括があり、会場からの拍手とともにトロフィーとオリジナルTシャツが進呈されました。

トロフィー贈呈

次回はどんなゲストが訪れるのでしょうか。第6回「アーキテクトを探せ!」の開催を、どうぞお楽しみに!

構成:LAYOUT 編集部
テキスト:野本 纏花(@nomado617