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意外と知らないモクの常識と不思議 〜「モクと呼ばないVol.2」イベントレポート

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“木(モク)の可能性をテクノロジー/ビジネスから再定義すること”を目的に、木を使ったイノベーションや未来への取り組みを共有するプロジェクト“僕らはそれをモクと呼ばない”。第2回目として、モク×テクノロジーをテーマに2016年11月3日にトークセッションが開かれました。

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会場はMTRL KYOTO(https://mtrl.net/kyoto/)。YouTube Liveでオンライン中継も行われ、現場では参加者全員でモクに秘められた可能性を探りました。会場の雰囲気も相まって、登壇者と参加者が入り混じりながら意見を出し合ったイベントの模様を、レポートでお届けします。

まずは身近にあるモクを思い出してみよう


ホストを務めたのは、株式会社西粟倉・森の学校の井上達哉さん、FabCafeプロデューサー/ヒダクマ(株式会社飛騨の森でクマは踊る/以下、HIDAKUMA)執行役員の岩岡孝太郎。二人の活動は「僕らはそれをモクと呼ばないVol.1」レポートに詳しく紹介しています。

イベントの冒頭、岩岡から1つの問いかけが…
「そもそも「モク」と「き」は何か違いがあるのでしょうか?」

続けて、「明確な違いはない気はしますが、山に生えている状態を“き”、建築や家具などを作る素材の木を“モク”として、本日は、“木(モク)”について考えていきたいと思います」と、宣言。続けて会場からの意見も集めます。

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岩岡 みなさんの身の回りには、どんなモクがありますか?

参加者A うちは家の床材が無垢の木です。あと子どものおもちゃが多いです。

参加者B うちはテーブルや家具くらいしかないかな。あとはお箸とか。

参加者C 私は職場の無機質な感じを変えたくて、モニター台に廃材のモクを置いています。最初、職場に持って行ったときは、みんなに大笑いされたんですけど。「えー!その板わざわざ電車で持ってきたの?!」って。

岩岡 モクが入ったことで、職場の雰囲気は変わりましたか?

参加者D はい。目に入れた人が「やっぱりいいよね」言います。中には、それをきっかに「林業について話そう」と質問する人も出てきました。

岩岡 今、みなさんが挙げたように、モクは生活空間にさまざまな形で使われていますよね。モクの効果は、「温かみが生まれたり」「空間が和らいだりする」
など、なんとなく感じていると思います。それを共通認識としつつ、井上さんから、あまり知られていないモクの面白さを語ってもらいます。

僕らの知らないモクの不思議


井上 西粟倉にある木はスギやヒノキの針葉樹林が中心です。人口森なので間伐が必要となります。ところが、外部の人から頻繁に聞かれるが、「どうして間伐するんですか?」「間伐するくらいなら、最初から隙間を開けて植えればいいじゃないですか」という疑問。まずはその理由をご説明します。

通常、苗木を植えるときは1m〜1.5m間隔で30cmで手植えしていきます。そして、10年に1回、2〜3割を間引きをするんですね。これが「間伐」です。

その理由は、最初に密度を高く植えることで上からしか光が当たらない環境をわざと作り、「伸長成長」を促していくためです。その上で、間伐することで地面にまで光が届くようになり、植物が横に広がります。これが「肥大成長」です。この伸長成長と肥大成長の繰り返しをしながら、60年〜70年をかけて、35mくらいまで木は大きくなっていきます。“とにかくまっすぐの木を作る”技術が林業には隠されているんです。

岩岡 2つの成長のことは、意外と知られてないところですね。

井上 ここで事例を見せますね。これはスギの木の丸太なんですけど、中心が赤いのが分かりますか? 木材腐朽菌やカビに耐えられるように、木が自分で作った天然の防腐剤です。神社仏閣を作る宮大工さんの中には、この赤い部分だけ使う人もいるんですよ。

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この赤い部分を取り出すために、木を倒してから10年間くらいかけて周りを腐らせます。ちなみに、どんな太さの木でも外側の白い部分が4cmくらいと決まっているんですよ。だから建築関係の方から「白い部分だけ欲しい」と言われても、それはなかなか難しい。

岩岡 中心の赤いところは、最初から赤いんですか? 白と赤の境目で何が起きているのか気になります。

井上 いや最初は白です。これはまだ科学的にも解明されていません。細胞としては内側が一番古く、細胞分裂が活発なのは皮側です。しかし、あるときから中心に赤がチョンっと出てどんどん広がっていくんです。この白と赤の境目を「移行帯」というんですけど含水率が10%と乾いています。伐採されたばかりで含水率120%ですから、ここだけかなり低いんですよ。お酒を入れる樽にはこの移行帯が使われます。

岩岡 不思議ですね。

井上
 木目の話ですが、色が濃いところが冬に成長する細胞。薄いところが夏に成長する細胞です。幅が狭くなったり広くなるのは、そこで間伐しているからと考えられます。間伐により、スポットライトのように突然光が当たる量が増え急速に成長しているんです。

岩岡 夏にグワッと成長したところよりも、冬にギュッと成長したほうが強度はありそうですが、いかがですか?

井上
 うーん。「硬い」という点では、冬の濃い線のほうが硬いんだけど、耐久性という意味ではどうでしょう。「硬さ」でいうとスギやヒノキの冬目は鉄くらい硬いのですが、それだけだとポキンと簡単に折れてしまう。木目が“細やか、かつ、しなりがある”、つまり、夏目と冬目のバランスが大切ですね。

岩岡 冬目が硬さを担保して夏目が柔軟性を生むわけですね。

井上 そういうことです。

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そもそも節があるとなんでダメなの?


井上 伐採した木は、曲がりや大きさで選り分けるのですが、「これは柱に使えそうだ」「天井の板に使えそうだ」など、ほぼ用途を決めてから製材をしていきます。特に“節(ふし)があるかないか”で、倍くらいの価格差が出てくるので、選定は一番大事ですね。そして、容量の半分は、この工程でおがくずにしたり、捨てられたりします。

岩岡 節があるとなんでダメなんですか?

井上 ダメじゃないけど、昔から林業をやっている人は、「節がない部分がたくさんある=若いうちからしっかり手入れをされてきた良い木」という価値観があるんですよね。今は、むしろ節がかわいいし、本物っぽいって意見もあり、ニーズは変わってきています。

参加者 節は抜けて穴が空きますよね?

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井上 そうですね。枝打ちの時期ややり方が悪いと、そこから虫や水が入ってしまって、板にしたときに枝の痕がポコンと抜けてしまいます。この現象は間伐材ならではですね。

岩岡 節があるとB級品になるんですか?

井上
 いいえ。節で穴が開いたところは正円をあけて、同じ径に削ったヒノキの枝で埋めるので、加工の手間がかかるけど埋めることができます。

岩岡 それでも節の無いほうが高いんですね。

井上 節が無いほうが希少価値が高いので。製造原価は“節がある”方が高いのですが、値段を一緒にしてしまうと、みんな無いものが良くなって、あるものばっかり余っちゃいますね。

岩岡
 やはり節が無い場合が少ないですか?

井上 はい。全伐採量の2割くらいしかありません。

岩岡 職人さんが節が無いものを求めるのは分かるんですけど…一般の方が木材を買うときも節の有無を気にしますか?

井上 いいえ。以前、ユカハリタイルは節ありとなしで値段を変えて売っていたんですが、逆に節無しはほとんど売れませんでした。

岩岡 やはりそうですよね…節があったほうが本来のモクを楽しめますから。

井上 節があることを北海道では“キャラクターがいる”って言うんですよ。

岩岡 個性ってことですか?いいですね。そもそもB級って言うのがいけないのかな。

参加者 節の有無で強度は変わらないんですか?

井上 関係ないと言われています。表面に見えていないだけで、どんな木でも内側には節はあって当たり前のものなので。

僕らは節の穴に蓄光樹脂を入れ光るようにして子供部屋の天井板を作っていたりもします。節の穴埋めは、欠点補修のようでなんとなくネガティブですよね。どうせなら“喜びを埋めて”楽しくしちゃおうという発想で。

岩岡 すごくいいですね! そんな発想がすごく大切。アイデアを聞けば、「だったらこれを埋めてみたい」と誘発される仕組み作りですね。ぜひユーザーと一緒に考えていきたい。

参加者 ちなみに、西本願寺の床板には「埋め木」と言って、穴の形が富士山や瓢箪になっているんですよ。

井上 素敵ですね。大工さんの発想は粋だなぁ。今なら、レーザーカッターの使い方とか絡めて発想できそうですよね。

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モク×テクノロジーの先にあるもの


井上さんから基本的な間伐材の話を教えてもらい。後半は、岩岡からモクを使ったデジタルファブリケーションの事例が紹介されました。ここから、モク×テクノロジーな話題へと突き進みました。

岩岡 飛騨の木は広葉樹なので、曲がりくねっていたり、虫食いで穴が空いている木がたくさんあります。多くは、チップになってしまうんだけど、このキャラがあるモクたちをなんとか救ってあげたいと考えています。そこで、さまざまな種類のモクを使ったテーブルを試作してます。

実現の過程で、テーブルの脚をつけるところが難しいと判明しました。そこで、ジョイント部分は3Dプリンターで作ることにしたんです。DIYで一番難しいところを3Dプリンターなどの技術に頼ってみると、高い技術がない素人でもいろんなことができることが分かりました。

井上 なるほど、テクノロジーによる補完ですね。

岩岡 現在、HIDAKUMAに1週間滞在し、モクを使ったデジタルファブリケーションで面白いことをやっている方がいるのでご紹介しますね。深地宏昌さんです。

深地 僕はデジタルファブリケーションについて研究しているデザイナーです。モクに関しては素人なのですが、日本の7割が森林なのに、自給率は3割を切っていることを知って、その沢山ある杉のモクをうまく活用しようと考えてみました。

深地さんヒダクマ滞在

先ほどの話にもあった冬目と夏目の特徴を活かし、柔らかい夏目の部分を削り込んで凹ませることで、硬い冬目を浮かび上がらせる「浮造(うづくり)」という伝統技法をレーザー加工機でできないかとトライしてみたのがこれです。

浮造コースターの写真

節があった方がデザイン的に締まると思うので、むしろ節があるモクを使いたい。浮造は節の周りに良い表情が出るんです。

岩岡 おお、節のニーズがありましたね。

深地 “レーザーでやりました感”が出ないように、2mmだけ縁を残した状態でカットして、プロダクトとして洗練させました。正直、効率が良いかと言われるとそうではないけれど、目的としてデジタルファブリケーションを使ったらおしまいとか、簡単にできるからレーザー加工機を使うのではなくて、最終的な目標はあくまでもプロダクトとして良いものを作ることだと思っています。

岩岡 ほんとそうですよね。レーザーカッターや3Dプリンターを使っただけで満足していてはいけないと、僕も思っています。デジタルファブリケーションを活用することで生まれる余白時間をクオリティを上げる方向に使うことで、単なるDIYからプロダクトデザインへ昇華させることが大事ですね。

最後に岩岡はモクを活用した最新のナノテクノロジーについて語り、「まだ僕らは簡単にアクセスできない技術かもしれないけれど、モクを使ったセルロースナノファイバーや3Dプリンターのフィラメントが使える未来は必ずやってきます。そのときにモクを見つめ直すのでは遅いと思うので、今からモクと向き合っていきたいと思っています」と締めくりました。

構成:LAYOUT 編集部
テキスト:野本 纏花(@nomado617