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宇宙ミュージアムTeNQの制作チームが語る空間づくりと体験づくり

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2014年7月にオープンした東京ドームシティの宇宙ミュージアム『TeNQ(テンキュー)/ http://www.tokyo-dome.co.jp/tenq/ 』が話題です。“宇宙+ミュージアム”から博物館を想像するかもしれませんが、実際には「宇宙を体験できる!」と口にする人が続出する今までにない空間が展開されています。先月、このミュージアムを実現させた制作チームがOpenCUイベント『宇宙ミュージアム「TeNQ」のクリエイティブ 〜制作スタッフによるトークセッション』(2014.7.26開催)を開催しました。LAYOUTではTeNQが体験型ミュージアムであることに着目し、トークから得られた空間づくりと体験づくりのヒントを紹介します。

 

イベント情報

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△イベントの様子。シアター宙(そら)の映像を制作したタケナカの谷田さん(右から2番目)の進行のもと、TeNQの展示・内装におけるクリエイティブディレクションに携わった株式会社丹青社の洪さん、吉田さん、GLMV株式会社の丸野さんが登壇した。

 

TeNQ(テンキュー)とは?

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心打つ星空、圧倒的な宇宙空間、最先端のサイエンス、宇宙からインスピレーションを受けたカルチャーなどを楽しめる新しいエンタテインメント施設の宇宙ミュージアム『TeNQ(テンキュー)』。当施設は「宇宙を感動する」をコンセプトとし、これまでとは違った視点から、「なるほど!」「もっと知りたい!」「誰かに話したい!」という知的好奇心を刺激する空間を提供します。(プレスリリースより)
http://www.tokyo-dome.co.jp/tenq/

事業主:株式会社東京ドーム 「事業構想・計画、運営管理、企画・販促」
展示・内装:株式会社丹青社 「クリエイティブディレクション、施設コンセプト企画協力、展示企画、デザイン・設計、制作・施工」
シアター宙コンテンツ制作・テクニカルディレクション:株式会社タケナカ
「シアター・コンセプト企画協力、コンテンツストーリー企画協力、映像制作、シアターシステム構築」

 

◎人の気持ちをマップ化。その起伏に合わせて体験を演出する

今回のトークセッションは主に制作秘話が中心でした。訪問者であるユーザー側の視点と、制作サイドの視点が交差しさまざまな考察が披露されました。TeNQの全体像は公式サイトのエリア紹介を参照にしていただき、ここでは制作チームで共有された感情のマップを起点に裏側を紐解いてみます。

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△制作チームで共有されていたTeNQのエクスペリエンスマップ(※クリックで拡大)。各ゾーンで与える感情の種類が整理され、それを通したジャーニーが参加者にさまざまな印象を与える(提供:株式会社丹青社)

 

「TeNQはさまざまな側面を持っています。まず、未来的なエントランスには宇宙に関わる小物で彩られています。エントランスを抜け左の入場口に入るとイベントスペースへつながります。入場口はトンネルゼロです。そこは始まりの部屋という空間となります。プロジェクションマッピングを活用しているすごく綺麗な空間で、映像が人と宇宙の関わりや始まりを描いています(谷田)」

 

「トンネルは、マインドをリセットする“ゼロ”という意味を込めいます。日常の喧騒からちゃんと入っていくためのアプローチゾーンです。それに続く「始まりの部屋」は古代から脈々とある人々と宇宙の関わり極めて短い時間で走馬灯のように見ていく映像展示です(洪)」

 

「空間としても包み込まれるような。3面スクリーンにはなっているのですが、床から天井までのダイナミックな映像を見せることで、変容する部屋に入り込んだかのような迫力のある映像が体験できます(丸野)」

 

「普通の展示会ならこの映像がメインになるのですが、TeNQはさらにメインシアターを用意しています。それがシアター宙(そら)。直径11m円形の周りを約70名の人が囲って見るというスタイル。宇宙から地球を見下ろす視聴体験を実現したかったんです。僕と丸野さんがメインになって制作し、思い入れが詰まっていますね(谷田)」

 

TeNQのエクスペリエンスマップの果たす役割は制作過程のためのものさしであると洪さんは解説します。

 

「コンテンツや機能を考える前にまず参加者をどういう気持ちにさせるか、入口から出口までのマインドストーリー(気持ちの動き)を考えました。マインドストーリーは参加者は意識する必要はありませんが、空間の作り手はとても意識しなければなりません。マインドストーリーは空間のプログラミングであると考えています。空間デザイナーはプログラマーで、参加者はそのプログラムの実行者なのです(洪)」

 

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△制作当初に作成されたマインドストーリー(吉田さん作/※クリックで拡大)。全体を1つの体験として制作チームではあらゆる判断基準の指針となった(提供:株式会社丹青社)

 

「空間はメディアでプログラミングして作ります。そのプログラムを体験者が再生しマインドが変わる、それを起こす装置を作っている意識がありました」と谷田さんは語ります。

 

 

◎参加者が空間を切り取り共有できるシアター宙

 

上記マップでは、シアター宙が参加者の感情のピークにもっていく施設。それがもたらす体験を制作のプロセスから考えてみました。成り立ちの経緯を谷田さんが振り返ります。

 

「クライアントからどこでもみたことない、古びない、いつの時代も見る人が感動するような体験を提供してほしいと依頼がありました。悩んだ末にあの形を作り出したんです。テーマは”超感動”。その方針を元に丸野さんと何度も議論しながら設計を進めました。当初のコンセプト作りで“奈落シアター”とキーワードを設定しました。のぞきこむという姿勢はプラネタリウムとは逆、つまり、能動的に自分から見に行くというマインドを産みます。囲うっていうのは空間を切り取るという意味があって、参加者で切り取って共有体験ができるシアターにテーマが決まりました。イメージを中心にシンプルな表現ながら、体験を共有するという具合です」

 

「宇宙から地球を見たい素直な想いを形にしました。宇宙飛行士が持ってる共通感覚としてオーバービューエフェクトがあるらしいと知って、地球を飛び出して宇宙から地球を見た人だけが持ってる感覚を共有する体験を設計しました」と丸野さん。なお、シアター宙の映像素材は、なるべく光の少ない夜空を撮影するためにハワイでのロケが敢行されたそうです。

tenq-07△シアター宙のテーマであるanother point of viewのコンセプト文

 

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△シアター宙を支える技術の1つ、解像度についての資料。どれくらいの画質だと質感を失わずに見れるのか、シミュレーションを行った。コストとの兼ね合いで1m=1mm(1ピクセルをどの距離でどの大きさに感じるか)を基準に考えられたという。その他、覗きこむ角度などの条件も細かく設定されている。4K画質を再現するために対応するプロジェクター12台を駆使して投影されている

 

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△ビューポイントの設定に関する丸野さん制作の資料。スケール感、浮遊感を演出するためのズームアウト、回転、移動が想定され設計されている

 

 

◎現場で最先端の宇宙研究を再現!?サイエンスを設置した意味

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シアターを抜けるとサイエンスのゾーンに入っていきます。ここで突如、研究室が目に入ってきます。TeNQにおける「サイエンス」の意味を洪さんが解説します。

 

「『サイエンス』には宇宙研究の最先端研究室がリアルなかたちで持ち込まれています。そして、ここで得た研究データは適宜、展示に反映させる仕組みになっています。宇宙をテーマとしたミュージアムの可能性がどこまで進化させられるのかの試みなんです。東京大学総合研究所の大学博物館で惑星物理学を専門にしている宮本英昭准教授(http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/SEED/)とのディスカッションの中で、“研究の様子をそのまま展示するのは面白い”と盛り上がり実現させました。宇宙研究は画像が標本代わりです。探査機から送られてくる画像を見るだけで参加者は宇宙をリアルに体験できます。そのため、宮本先生は高精細な画像にこだわります。参加者は何気なく見ている画像かもしれませんが、研究現場でしか見ることのできないハイクオリティなものが開示されているんです」

 

谷田さんは「サイエンスは、古びないで常に新しさを持続するこのミュージアムの根幹」と称しています。順路はサイエンスを抜け、最後のアミューズメントゾーンへと進みます。宇宙を気軽に楽しむコーナーです。丸野さんが解説します。

 

「コトバリウムの目的は“繋がる場所”。映像主体ですが、画像そのものではなく宇宙の関わる名言(テキスト)が星のように映し出されます。名言に包まれながら言葉とちょっと対峙して自分も宇宙を考えるきっかけを与えてくれます」と吉田さん。 洪さんは、TeNQを「主人公は人間で、すべて“宇宙と人”がどのように繋がっているのかにこだわりまくっている施設です」と表現しました。「TeNQで記念写真を撮るのも宇宙と自分との関わり方ですね」とのことだ。

 

コトバリウムを抜けると参加者が月面で記念写真を撮れる写真ブースセクション、おみやげコーナーなど、圧倒的な体験から徐々に現実に戻るような体験を提供しています。

 

 

◎作られたものには寿命があるが、人の好奇心は普遍

 

TeNQは参加者に新しい体験を提供します。同時に、制作チームは、“この施設でクリエイターの制作のあり方に影響を与えたい”と考えています。谷田さんはその想いを語ります。

 

「ここは地上で宇宙を見渡せる唯一の存在です。それを活用してクリエイターが考える宇宙を表現できたらいいですね。コラボしてもらうイメージ。その行為でTeNQの価値がどんどん普遍的になるしプラネタリウムにはない価値を提案できると思います。

 

吉田さんはデザインを通じシアターの存在意義を発見しました。「まさに東京に開いた宇宙の穴だと思います。私も宇宙に憧れて魅了されましたが怖くて行けないなと感じていました。チームで2年ほどプロジェクトを続けて穴からのぞいた時に、宇宙に行かなくてもいいんだ。ここにくれば宇宙があるんだって思いました。浮遊感もあるし、ここでしかできない体験ができるミュージアムになっていると思います」

 

最後に、空間デザインのエキスパートである洪さんがまとめます。「施設はどんどん成長するんです。シアター宙もメディアとして仕込みを何度もして手間がかかっている分、耐久力がありますが、作られたものは色あせていき寿命が来てしまう、それは宿命だと思うのです。宇宙の穴は好奇心の穴で普遍だと考えています。穴から見た別の風景も期待できるし皆さんも期待すると思います。穴があったらのぞきたくなる普遍的な人の好奇心にずっと応えてくれると思っています」

 

 

テキスト/長者原康達(LAYOUT編集部)