UXDE dot Net

Technology meet Real Vol.2 ウェアラブルデバイスとそれがもたらす身体性の拡張とその先

By -

こんにちは、FabCafe Tokyoのカナオカです。

今回は僕がいま気になっているウェアラブルデバイスについてと、その普及によって人の身体性や空間に何が起こるのかということを考察したいと思います。

 

浸透するウェアラブル  ウェアラブルデバイスとは

これまでコンピューターを操作するということは椅子に座り、ラップトップを開いて作業をするというイメージでした。しかし、コンピューターの小型化によりさまざまなデバイスにコンピューターが浸透してきています。

ウェアラブルデバイスとは身に着けることができるコンピューターデバイスのこと。定義としてはスマートフォンから万歩計まで含まれますが、身に着けるという意味ではGoogle社のGoogle GlassやNike社のFuel Bandを思い浮かべる人も多いのではないかと思います。

コンピューターの小型化とウェアラブルデバイスの普及により、人間とコンピューターの距離がじわじわと近づいてきています。

今回は、テクノロジーとしてのウェアラブルデバイスと、それが空間に及ぼす可能性。そして、ウェアラブルデバイスとそれがもたらす身体性について考察したいと思います。

 

Google GlassとNod

Goolge Glassはウェアラブルデバイスの代表例と言えます。

Goolge GlassはGoogle社が開発した、メガネ型のヘッドマウントディスプレイ。カメラデバイスや音声認識機能も備えています。着用するとPCを開くことなく、シームレスにネットワークにアクセスしてディスプレイに情報を表示したり、目の前の状況をカメラデバイスで撮影することができます。

kanaoka02-1

▲Google Glass

photo from Google Inc.
(https://www.flickr.com/photos/taedc/9082188786)

 

Google Glassの優れているところはそのテクノロジーだけではなく、デバイスと人間を高いレベルで親和させている点です。コンピューターにアクセスする際にラップトップを開いてキーボードを打つのではなく、自然な行動の延長線上でデバイスへのアクセスが可能となっています。

たとえば(Google Glassの標準機能として可能なのかどうかは別にして)まばたきをするだけで写真を撮ることができるとしましょう。するとここで重要なのはそのテクノロジーもさることながら、カメラを持つ、カメラを構える、被写体を追う、シャッターを切る、というような一連の行為のプロセスを経ることなく写真を撮ることができるという点です。ウェアラブルデバイスを用いることで極めて無意識に近い、歩く、腕を上げるあるいは顔を上げるというような人間の行動原理と同列線上に、デバイスを介した機能を新たな選択肢としてとることができます。

 

ウェアラブルデバイスのもうひとつの例としてNodというプロダクトがあります。

kanaoka02-2

kanaoka02-3

▲Nod

photo from Nod, Inc.
(https://www.hellonod.com/)

 

Nodは指輪型のウェアラブルデバイスで、モーションセンサーやタッチセンサーが内蔵されています。Nodを指にはめて生活することで、たとえば壁際まで歩いていくことなく部屋の電気のスイッチをON/OFFしたり、電子ロックを解除したりと、ウェアラブルな電子的なインプットデバイスとしての利用が考えられます。

今日ほとんどの人がスマートフォンをもっているように、Nodのようなデバイスを人々が装着することで、ミクロなスケールでの社会インフラの発達が進むと思われます。

こういったウェアラブルデバイスが浸透することで身体とコンピューターデバイスの親和が進みます。こういった、いわば身体性の拡張のようなことは実は身近に存在します。

 

デバイスと身体性

例として車を運転するときです。特に長時間運転するとき、まるでその車が手足の延長のように感じることがあります。特に意識しなくても、ハンドルを切ったりスピードの増減を操作できます。もしくはテニスをするときにラケットを手の延長のように扱うことができます。人間の脳の可塑性は道具を身体の延長のように扱うことを可能にし、その道具がウェアラブルになり、デバイスになることで人間の身体性の拡張が今後よりいっそう進むと思われます。

人間の本能的な動きを各種センサーが内蔵されたウェアラブルデバイスを使って無意識下に動きを検出、ネットワークに接続することで、無意識のうちにまるで自分の動きの延長のようにモノを動かしたり、通信したりすることができるようになるということです。

こうして、人間はその身体性をテクノロジーによって拡大してゆきます。

ウェアラブルを超えて、脳に直接センサーやコンピューターを埋め込むのが一般的になる日も近いかもしれません。そのセンサーによって人間の無意識的な命令を実行するような一方向ではなく、動きや考え方に介入してくるような双方向的な作用をもたらす可能性もあります。

たとえば、自動車に搭載されているような衝突防止センサーのようなものが脳内に内蔵されて、人間の行動に介入したり、あるいは検閲システムのように脳内であるNGワードを考えるとセンサーが感知して指導者の都合のいいように思想誘導を行う。なんてこともあるかもしれません。

これはサイエンスフィクションの世界ですが、今の技術の延長線上にあるものです。それが実現したとき、無意識にコンピュータと融合しすぎたがために、どこまでが自らの意志で、どこからがセンサーの反応の結果なのか、そうした意識に苛まれることもあるかもしれません。

 

スマートダスト

コンピューターを能動的に身にまとって(あるいは体内に埋め込んで)利用する一方で、空間をコンピューターで満たし、環境として受動的に利用するような考え方があります。

スマートダストという考え方があります。日本語訳すると賢い塵(ちり)、という意味となります。

塵のように小さなコンピューターデバイスを散布しセンサーネットワークを形成、空間にユニバーサルにコンピューターデバイスを配置することで、コンピューターーを群として、あるいは環境として利用するという考え方です。

それらはマイクロマシンとも呼ばれるますが、μ mmレベルの超小型デバイスのことで、各種のセンサーや無線通信機能が搭載されていて、極小電力で作動し、太陽光などの周辺環境によって半永久的に動力を獲得します。

 

kanaoka02-4

kanaoka02-5

▲スマートダスト

photo from Nanotechnology Now
(http://www.nanotech-now.com/smartdust.htm)

 

大きさは目に見えないレベルまで極小化されていて、空気中を漂い、呼吸して体内に取り込まれてもまったく無害。

DARPA(ダーパ、米国防高等研究計画局) が着目した技術であり、元々は軍事技術としての利用が検討されていました。

いまわれわれは無線通信ネットワークを(特定の環境や地理を除いて)どこにいても気にすることなく享受していますが、通信ネットワークだけではなく、膨大な数の極小センサ群によってある環境のさまざまな情報を享受することができます。

たとえばあるビルにスマートダストを散布しその空間を監視したり、搭載された各種センサでその空間や環境を計測することができます。散布されたスマートダストに人間が触れれば接触の際に発生する微小電力によってその存在を感知することもできるでしょう。

また、センサーのネットワークを総合し、群として情報を分析することでその人間の挙動や体調までまでセンサリングするような技術もスマートダストの考え方を応用すれば可能だと考えられます。

 

kanaoka02-6

▲スマートダストによってセンサリングした空間の筆者イメージ

photo from severn partnership
(http://www.severnpartnership.com/case_studies/rail/overhead_line_equipment/attachment/rail_ohle_3_ohle_laser_scanning_paddington)

 

このように、コンピューターがユニバーサルにインフラストラクチャ的に周辺環境として存在する空間が完成すれば、、ラップトップや携帯デバイスを介すことなく外部と通信したり、ネットワークにつながることができます。究極的な無意識下で機械と融合するということです。

空間を身にまとう、といった感覚に近いかもしれません。

 

 

ウェアラブルデバイスのこれから

ウェアラブルデバイスやスマートダストのようなテクノロジーが発達し、あらゆるものにコンピューターが内蔵され、コンピューターを介するという認識すらすることなくコンピューターを利用するようになるでしょう。コンピューターを介するという認識がなくなるでしょう。

あるいは物質自体もコンピューター化され、コンピューターによる制御や効果を、まるでそのコンピューターが内蔵された物質元来の物性のように認識するような…そのうちウェアラブルデバイスという語は死語になり、『昔はコンピューターを身につけていたんだ』という笑い話をするような、無意識のうちにコンピューターの粒子を体内に取り込んで利用するのが当たり前の時代が到来すると考えられます。

 

 

kanaoka

 

 

 

 

 

 

 

カナオカダイキ Daiki Kanaoka

FabCafe Tokyo Fabエンジニア。英・マンチェスター大学で建築を学び、一時日本に帰国。2012年3月よりオープン直後のFabCafeに参加。FabCafeで勤務する傍ら、2014年3月までnoiz architectsに勤務。デジタルファブリケーションやコンピューテーショナルデザインを駆使した建築設計を担当。各種デジタルファブリケーションのマシンの操作や、3Dモデリングを得意とする。FabCafe Tokyo : http://fabcafe.com/tokyo/