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岩沢兄弟の空間たし算ひき算〜 Vol.02:飛騨訪問から見えた合宿所のあり方!?

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バッタネイションのお二人が空間や体験を自らの経験から考察するコーナーの第2回。今回は、前回の最後に設定したお題「合宿所」にまつわるお話。前回のインタビュー後、とある案件のため、岐阜県の飛騨・古川に数日間滞在し、そこで感じたことを中心にお話を聞いてみました。

日常と日常の差異に意識を持ってくのが面倒くさくて面白い

LAYOUT ツアーでは地元の産業を視察するテーマがあったみたいですが、まずは率直な感想としてはどうでしたか?

岩沢卓(以下、卓) そこでモノ作りをしている人たちと会えたことが今回大きい収穫ですね。記憶を思い返す手がかりって、細かな家具の配置だったり、アトリエの前の道だったり、そうやって記憶の凹凸みたいなのを増やすことで、空間自体の記憶を共有することに繋がっていると思います。あくまで訪問者目線ではありますけど。同じ空間で会話をしたことが、後々の結構な差に繋がって来る気がしています。

岩沢仁(以下、仁) 合宿所っていう、場所を考えることよりも、その周辺での人に会うツアーが体験を濃くするんでしょうね。それに気づいて、出来るだけ工房なり工場なりに移動して見ることを重視した。移動しないと会議室で面接と変わらないですから。

 “あぁ、この人はここで働いてんだなぁ”ってのは、面接のような短時間で共有できるもんじゃないかもしれないけど、態度としては重要だと思います。

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LAYOUT 今回は、地元の人の紹介がメインでしたか?

 いいえ。プロジェクトを仕切る(トビムシ)人の紹介で、直前にいろんな場所に連絡をしてもらって、運良く回ることが出来たんです。そこで感じたのが、日本各地に地元の作り手を繋ぐ、顔の広い人の存在は必要だったことでした。

訪問先は、製材所、家具工場から個人工房。発明王みたいな板金屋さん、伝統工芸の体験室など、多岐にわたっていました。ちょっと駆け足過ぎた気もするけど、何度か通うための取っ掛かりとして、人を介していくのは大事でした。

 例えば、通勤の経路とかが見えたりすると、「生活」や「日常」の取っ掛かりに触れられるのが大きい。あくまで、外者で、合宿しに行くにしたって、「非日常」に触れるのが目的だともったい無いですね。日常と日常の差異に意識を持っていけて、それを共有した人と話をしたり、一緒にモノ作ったりできるのが、面倒くさくて面白いわけですから。

 今回は、建築クリエイターの人と一緒だったので、見て聞いたものに感じたポイントだったり、ズレだったりを随時確認できるのが贅沢な時間でしたね。当たり前ですが、誰と行くかも重要ですね。

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LAYOUT そのような体験から見えてきた合宿所のあり方はどんなものですか?

 合宿所の要素として、「簡単に帰れないこと」のが大きいと思います。その点で、今回訪問させてもらった飛騨は、程よく新幹線の駅からも飛行機からも遠いので「滞在する」意識付けとしては面白いと思いました。

 移動時間の効率化だけで考えると現実的でない場合もありますが、みんなで渋谷に泊るとか、関東近県に2-3泊するでも、意識が変わり見えることがありそうですね。なので、東京近郊で合宿ってのも成立すると思いました。

 移動時間が長いことが何を生むかというと、“都市部にあるもの(例えば情報)をたぐり寄せる”実感が持てることですね。人もモノも頻繁に動いているし、情報も回っている状況だと気付かない、デジタルやネットワークの強みってのが実は人が移動することで、実感を伴ってくるわけですよね。一緒に移動している同士の連絡や情報収集方法の比較から感じることもあるわけだし。

で、その実感との距離を摺り合わせて合宿に望まないと、「情報化社会」「流通革命」と言ったところで、ある組織内での出来事になってしまう。例えば、東京と飛騨、ニューヨークとアムステルダムの距離でも仕事ができる感覚を“身体に引き寄せる感じ”ってのが、合宿を通じて実感になるのも面白いですよね。

 あと、そこで感じるのが、「流されない人」「抵抗する人」の存在を認識すること。行政が…とか、頭が固い人の話ではなくて、都市部が持っている流動性が特殊なんだ、ってことを考えるきっかけになりますよね。とにかくその場所で話を聞くことで解決できるわけです。それは、建材や技法にも言えて、必ずしも、古い技法に固執する必要はないけど、「引っかかってる人に話を聞くと、何かあるかもなぁ」という感度は鈍らせないようにしたい。

 未来礼賛、デジタル礼賛、で思考停止しそうになる罠があるとしたら、それは都市の感覚が大きいと思っています。変化のスパンがゆっくりとしている人の体感だったり、変化しないことへの「意思」みたいなものがあるとしたら、それを感じさせる、それぞれの場所で話を聞いたりするしかないと思います。合宿所の具体からずいぶん逸れちゃいましたが、「移動」することが生む刺激は大きいって、当たり前の事実を再認識して思ったことですね。

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住人が見えることが面白さに繋がり持続可能な状況に近づく

LAYOUT 距離についての感覚と同様に現地滞在した感覚はどうですか?

 飛騨について言えば、「木工の文化」があり、それを「背負って生きている人」がいる。その人を介すると、自ずと何かが起こるものです。暮らしている人がいるから、ツテがあったりする。突然、つながりを作ろうとしても、動けなくて孤立してしまいそうですからね。地場に近い人がいると安定する感覚がありますね。

 一方で、その土地が持つキーワード(飛騨における木工のように)を全国にレペゼンする存在というだけでもいいんです。いや、そこが重要なんです。土地独自の技術を使うことに意識がいきがちですが、その文化やバックグランドがあること、住んでいる人が見えることが面白さに繋がるし、持続可能な状況に近づくと思う。

一番良い体験は、飛騨の木工職人と海外のデジタルファブリケーションの視察に行くとか…アムステルダム(DUS Architects)とか。何かデジタル的なのか、スピードと連携を誰が担っているか目の当たりにするのが面白しろそうですね。きれいに手をつなぐだけじゃ無くて、どんな水面下のバトルが起きるかも見てみたい。その橋渡しの役割の重要性は高まってきているので、とりあえず、3年後を見通して動くためのタイミングは今ですね。

 飛騨はほんとによい場所だと思います。地理的にはクラフト文化があるからプロダクトを作る土壌はある。電子は大垣からあがってくればいい、木工と電子工作との融合は面白いですから。太平洋側より生活環境は山深いところがいいと思います。クラフトは手合わせでやっていく職人がいて、CNC(生産工程における加工工程をコンピュータを利用して数値制御する方法)工作機を施設に置いて、ででっかい3次元工作ができればいいと思います。

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LAYOUT 今回は、飛騨・古川という木工が有名な土地に行ったわけですが、具体的に必要なものや都市との距離感など、何か見えてきましたか?

 物流の起点があるといい。“モノが動いている”実感がある場所が最適ですね。都市間では、完成された流通網があるので、解析や設計をそれぞれの土地で行い、加工を一箇所に集中することが可能です。

 倉庫が安いので全国からオーダ受けることでコストを抑えることもできる。発注者は渋谷にいけばいいいし、現地との橋渡し約が作りを知って説明できるようにする。これが今回の気付きですね。

 都市部は技術的なトレンドを知っている強みがあります。ニーズのある人と地方との翻訳のために、どこかで顔合わせする接点があればいい、例えばFabCafeのようなイメージです。そして、翻訳者は移動を繰り返す。接点は1つでいいんです。

小規模なクリエイティブカンパニーが、全国各地に居る巧の技術と、デジタルの恩恵を受けながら、大手メーカー向けにプロトタイピングすることが容易になってきたんだと実感しています。

バッタネイション


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取材/構成・文:LAYOUT編集部

バッタ☆ネイション

兄:岩沢 仁 Hitoshi Iwasawa
1974年千葉県出身。多摩美術大学卒。空間デザイナー/車輪家具プロデューサー/岩沢仁卓/有限会社バッタ☆ネイション代表。店舗やオフィスなどの空間デザインからイノベーション家具の提案、デザインを手掛ける。旭化成 VEGEUNI DESIGN AWARD 2012 最優秀賞。CINRA / DLE/Loftwork Lab /AOI DC /高気圧/などのオフィス空間を手掛ける。KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)に「車輪家具」を納車。自身でも家具の試作や作業なども行う。

弟:岩沢 卓 Takashi Iwasawa
学⽣時代よりフリーランスとして映像制作/ウェブ制作などの仕事を⾏い、2002年有限会社バッタ☆ネイションを仁とともに設⽴。テレビ番組連動フラッシュサイトの制作や、番組公式サイトの作成などを⼿がける。共著/部分執筆に、『USTREAMビジネス応⽤ハンドブック』『Ustream配信完全ガイド』がある。
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