社会人になると、イヤでも一日の内の多くの時間を過ごすことになるオフィス。たくさんの人が集まって、仕事をしたり、会議をしたり、ランチをしたり、休憩したり…。そんな“働く空間”を、もっと面白く、もっと快適な場所にできないものだろうか? いやできるはずだ! という想いからスタートしたのがこの企画。オフィス・店舗などの空間デザインや、車輪家具などのプロデュース、映像制作などを手がける「バッタ☆ネイション(http://battanation.com/)」の岩沢兄弟とともに、これからの働く空間についてアレコレ企み、どんどん実践していきます。この連載から、かつてない画期的なオフィスが誕生するかもしれません!
オフィスの空間デザインは、面白い
LAYOUT この企画のテーマは「働く空間」なんですが、お二人はオフィス空間の設計やデザインを数多く手がけてますよね?
バッタ☆ネイションがデザインを手がけたオフィス(上2つ:loftwork lab / 中:SHIFTBRAIN CINRAオフィス/ 下:Rockaku 事務所)
岩沢仁(以下、仁) オフィスの内装、多いですね。
岩沢卓(以下、卓) ”敵”が少なそうなところを狙ってますから。
LAYOUT えっ!? どういう意味ですか?
卓 大きい家具メーカーが、全て請け負うことが多い分野なので、隙間はあると思ったんですよね。いまは、クライアント側も大きな会社のほうが安心ってなっているからこそ、個人レベルのデザイナーが入り込む余地があるだろうと。個人レベルのデザイナーが入って、素敵な空間作りますよっていうところは、まだ少ないんですよ。
LAYOUT なるほど。では、オフィス空間について、お二人が思っていることや考えていることについて聞かせてください。
卓 住宅は“個人”。それに対してオフィスは“パブリック”。だけど、実はそこで働く社員とそのお客さんしか接触がない。でも、空間デザインとしては、そこを利用する全ての人にとっての“いい場所”を探っていく作業ですね。
仁 そうそう、社長が気に入っても社員が気に入ってない残念なオフィスもいっぱいあるね。当たり前だけど、目指すゴールが住宅とは違う。だから個人へのヒアリングで作っていくのではない。オフィスは、対象が集団であり、空間そのものにも目標がある。オフィスの方が空間に対しての課題をハッキリさせやすいと言えますね。
卓 住宅ってまた違って。夫婦、家族を満足させることが目的。今はその傾向がより強いんじゃないかな。昔のように建て売りではなく、施主がいてそのためにデザインする。それは素晴らしいことだけど、ゴール設定のやり方が同じアプローチのようでいて、僕らとは違うと思っている。そうすると、個人宅のほうがより相性問題になりやすい。それと予算の制限が大きい。出来上がった後のトラブルも多かったりして。オフィスはやっぱり働くためのもので、クライアント側も“こちら側もどこを優先にします?”となる。業務効率化のテーマがあったとしても、空間全体を活性化した方がいいのか、一人ひとりがこもれるようにした方がいいのか、ってあるじゃないですか。そういう目的をハッキリさせやすいんですよね。僕らは、その中で少し遊びの要素を入れていく。
仁 それが面白いと僕は思っているんです。オフィスにはいろいろな人がいて、いろいろな課題があって、その分いろいろな答えがあるはずだから。自分の頭で考えるモチベーションが上がるんですよね。
バッタ☆ネイション 岩沢仁(兄)
目指すは、“学校みたいなオフィス”!?
LAYOUT クライアントからは、どんな要望が来るんですか? 例えば、生産性が高まるような空間をお願いします、みたいな。
仁 あー、ありますね。“コミュニケーションが生まれる空間にしてください”って話もよくあります。コミュニケーションで例を上げると、LAYOUT編集部があるロフトワークのオフィスでは、階段*が非常に重要だと思ってます。 *編注:8,9,10階と3つのフロアは階段で行き来することが多い
卓 たとえば、階段を登ってきた人と降りてきた人がすれ違う。その短い時間でも「そういえばあの件だけどさ…」って、立ち話のコミュニケーションが生まれますよね。カラオケボックスのトイレにいく廊下ですれ違ってする会話みたいな。
LAYOUT 確かにそうですね(笑)
卓 この小さなコミュニケーションが大事なんです。でも多くのオフィスには、そういったすれ違う場所がなかったりします。ユーティリティな廊下みたいなものがない。限られた空間に詰め込むことや、レイアウトをパターン化することはうまくなってきてますけど、みんなが使う動線がクロスするところがなくなっていると思うんです。
仁 書類の承認をもらいたいときだけ、同じシマの端に座っている上司のところに行ってハンコをもらって。でも最近ではハンコもネットワークで済むようになってきていて、自分の席で完結しちゃう。効率化すればするほど、オフィスでのコミュニケーション濃度はどうしても薄くなりがち。
卓 そうそう。廊下があってわざわざ移動しなくちゃいけない、それが楽しい会社の方がいいと思う。それって学校みたいだよね。教室から教室へ移動する。そこでコミュニケーションが生まれる。それが大切みたいな。学校のようなオフィスって、いいよね。
良いオフィス空間を作るコツは、“可動”にアリ!?
LAYOUT オフィス空間でのネックは、社員が増えて移転したら、新しい場所で一から構築し直すことだと思うんです。経費もかさむし、業務スタイルも変わってくる。だからリソースが可変的にできればいいんでしょうね。
仁 僕らも「どれだけ可動がうまくできるか」を考えます。家具もそうだし、空間としても。空間について言えば「動かせるんだ!」って、誰にでも分かるようにしておく。レイアウトを変更しても使い方が分かるようにすることが重要です。ラクに動かせて、ラクに固定ができるなら、それだけで使ってみたくなりますからね。
植木鉢【車輪家具】
ホワイトボード【車輪家具】
カウンターテーブル【車輪家具】
稼働するソファー【車輪家具】
卓 個人宅では狭くて難しいけど、オフィスならいろいろなレイアウトができるからね。たとえば、今日のこのミーティングスペースも意味があってこの場所にしたんですよね?
LAYOUT いわゆる会議室みたいなスペースだと、何となくカタくなっちゃうかなと思って雰囲気を出したくて。
仁 目的に合わせて空間を選べるようにする、のも考え方の一つ。ビシッとスーツを着たビジネスマンが来た場合、まずはある場所で気持ちをほぐしてから別の会議室に通してお金の話をするとかね。仕事のスタイルの中でいろいろな選択肢があると、オフィスがもっと自由になって、面白くなると思います。
LAYOUT 自由なオフィスと言えば、フリーアドレスのオフィスって浸透しているんですかね?
仁 うまくいってない気がしますね。「好きな場所で仕事して」と言われても、分からないんじゃないですかね。それよりも、“家具の可動”と“人間の可動”がうまく組み合わさるような空間の方が、いい感じで機能すると思いますね。
快適でも一番つまらない空間があるんです。
LAYOUT “快適な空間”がキーワードになると思うのですが、どんな場所だと思いますか?
卓 シネコンですね。でも、一番つまらない空間もシネコン*だと思うです。*「シネマコンプレックス」複数のスクリーンを常設する大型映画館
仁 つまり、目隠しして行ったとしたら、どのシネコンなのか違いが分からない、という。
卓 そう無個性なんです。快適なんだけど、本来の空間の良さを殺してしまっている。地方の映画館にも面白さはあるけど、現に一回シネコンの快適さを味わった人は戻れない。例えば、近年に建築された六本木、新宿、渋谷のシネコンに違いはありますか? 中に入ったらまったく一緒というのはつまらないんですよ。“あの映画、9番で観たっけ? 11番で観たっけ?”ってなりますよね。
LAYOUT “映画を快適に見る機能”を追求した空間なんでしょうね。ある意味の最終形まできてるかもしれませんね。
仁 昔は「あの映画が、ようやくこの映画館に来た!」みたいなものがあった。映画と見た場所がセットで思い出になっていたんですね。
卓 シネコンという空間は快適なんだけど、思い出にはなりにくい。シネコンは、映画館を運営する側の論理で作られたものに感じてしまうんです。しかし、だからこそもっと先がある気がする。見終わって帰るまでのアプローチまで含めて面白い体験や空間が作れるといいよね。
バッタ☆ネイション 岩沢卓(弟)
目標は日本の働き方を良くしたい。面白くしたい
LAYOUT 初回は状況を俯瞰する会話になりました。そこで最後に、連載を通じてお二人が実現しいこと、検証していきたいことを考えたいですね。
卓 1つはビジネスホテルですね。「どこがビジネス?」って思いません?より“ビジネスホテルらしいビジネスホテル”を作っていきたいですね。可能であれば、一部屋だけでも改装の提案してみたい。家具にはいろいろ言いたいことがあります。
仁 もう1案。僕らはよくお客さんのところに打ち合せに行くんですけど、その時に出てくる飲み物って企業によっていろいろなんですよね。ペットボトルのお茶のところもあったり、果物のフレッシュジュースもあったり、こぶ茶もあったり、飲料の会社だったら新商品が出てきたり。なぜその会社ではこぶ茶が出てくるのか、を真剣に考えながら、打ち合わせの空間の話にまで広げたいですね。
卓 いろんな会社行って「会議室見せてください」って頼むのよりいいかもね。あとは、企業が抱えている研修施設を改装したい。
仁 東京から小一時間、郊外に移動すれば、使われない施設いっぱいありますからね。
LAYOUT 最近では、実業務でもプロジェクト単位で合宿したり、ハッカソン、メイカソン(Make+hack)などの動きもありますしね。そいうったワークスタイルの変化を先読みして、日本の働き方が少しでも良くなったり、面白くなったりするといいなと思います。
卓 いいですね、それ。「楽しく働く」の定義をして、働き方を良くしたいし、最終的には地球を良くしたい。
LAYOUT “地球を良くする”ための連載にしていきましょう。本日はありがとうございました。
仁&卓 ありがとうございました。
▶次の記事:岩沢兄弟の空間たし算ひき算〜 Vol.02:飛騨訪問から見えた合宿所のあり方!?
取材:LAYOUT編集部
構成・文:宗像誠也(ホワイトノート)
バッタ☆ネイション
兄:岩沢 仁 Hitoshi Iwasawa
1974年千葉県出身。多摩美術大学卒。空間デザイナー/車輪家具プロデューサー/岩沢兄弟/有限会社バッタ☆ネイション代表。店舗やオフィスなどの空間デザインからイノベーション家具の提案、デザインを手掛ける。旭化成 VEGEUNI DESIGN AWARD 2012 最優秀賞。CINRA / DLE/Loftwork Lab /AOI DC /高気圧/などのオフィス空間を手掛ける。KOIL(柏の葉オープンイノベーションラボ)に「車輪家具」を納車。自身でも家具の試作や作業なども行う。
弟:岩沢 卓 Takashi Iwasawa
学⽣時代よりフリーランスとして映像制作/ウェブ制作などの仕事を⾏い、2002年有限会社バッタ☆ネイションを兄とともに設⽴。テレビ番組連動フラッシュサイトの制作や、番組公式サイトの作成などを⼿がける。共著/部分執筆に、『USTREAMビジネス応⽤ハンドブック』『Ustream配信完全ガイド』がある。
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