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建築ストックに着目しプラットフォームを創る〜ツクルバ中村&モクチン連『アーキテクトを探せ!』レポート

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ゲストとの刺激的なトークセッションを通じて、これからのアーキテクト像を描いてみようという新たな試み「アーキテクトを探せ!」。第6回目となる今回、キュレータのモクチン企画の連勇太朗さんとFabCafeディレクターの岩本光太郎が選んだゲストは、コワーキングスペースの設計・運営、リノベーション住宅の流通プラットフォーム、空間デザイン・プロデュース事業等を展開するツクルバCCOの中村 真広さんです。

ほぼ同じタイミングで同じ出版社から書籍を刊行された中村さんと連さん。中村さんの『場のデザインを仕事にする 建築×不動産×テクノロジーでつくる未来』と、連さんの『モクチンメソッド 都市を変える木賃アパート改修戦略』にもスポットを当てながら、その思想や活動の本質に迫りました。

「建築×ビジネス」をテーマに、“建築を起点としたビジネスモデルの発明家であり、その先にある都市の変革を構想している”という共通点を持つおふたりが繰り広げた、楽しいイベントの模様をお届けします。

モクチンとツクルバの活動をそれぞれプレゼン!

モクチン企画 連勇太朗モクチン企画 連勇太郎

最初に、木造アパートの改修アイディアやデザインを「モクチンレシピ」としてまとめ、ウェブで公開することで、建築や都市デザインを実践しているモクチン企画の連さんのお仕事についてプレゼンがあった後、中村さんのプレゼンに移りました。(編注:モクチンレシピについて詳しくは、LAYOUTインタビュー「都市を更新する木造賃貸アパートの改修レシピ〜モクチン企画:連勇太朗」を参照)

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中村さんが共同創業者としてツクルバを始めたのは2011年のこと。創業当時は設計の受託案件を多く手がけていたため、中村さんがデザインやクリエイティブディレクションを担当し、ビジネス出身の相方の村上さんが営業を担当することも多かったそうですが、創業7期目に入った今は、ふたりの役割は右脳と左脳のようにデザインとビジネスの視点で会社経営に向き合うようになってきたのだそう。今のツクルバは50人強の会社へと成長しています。

ツクルバ中村真広さんツクルバ中村真広さん

ツクルバには、コワーキングスペースを企画運営する「co-ba/写真」・不動産のイノベーション領域での流通プラットフォーム「cowcamo/写真下」・いわゆるクライアントワークや空間デザインを手がける「tsukuruba design」・自社事業における情報空間のデザインを行うエンジニアチームの「tsukuruba technology」の4つのチームがあります。

co-ba shibuyaco-ba

2011年10月にスタートした「co-ba」ですが、今は「co-ba network」として全国17拠点に広がっており、最初につくった「co-ba shibuya」以外はフランチャイズで展開をしているそうです。

岩岡 「co-ba KURE-KOSEN」って、高専なんですか?

中村 そう。呉工業高等専門学校(通称:呉高専)の中にあります。高専って大学のように縦割りなので、なかなか専門を越えたコラボレーションが生まれない。でも15歳から専門教育を受けられるというのは、これからの時代にとっていいことなので、学部の垣根を越えてコラボレーティブな教育をしていきたい、という校長先生の思いから、学生ラウンジを自由に使っていいと言われ、学生たちと一泊二日のワークショップをして、壁を黒板塗料で塗ったり、床を地元の県産材で貼り直したりして、DIYで作りました。今は学生たちに運営をお願いしています。

iwaokaFabCafe/hidakuma 岩岡孝太郎

岩岡 直営が渋谷だけということは、コワーキングスペースを作りたいという相談があって、じゃあ「co-ba」にしましょうと提案する感じですか?

中村 最初は自社で展開しようと思っていたんですけど、継続して良い場所をつくり続けるのは想像以上に大変で。他拠点展開をどうしようかと考えていたら、co-ba的なものをやってみたいというオーナーさんが現れ始めたので、じゃあのれん分けしましょうと。

「co-ba network」のオーナーには、5つの約束があります。

 ①「チャレンジを応援する」マインドを共有していること
 ②運営の属性にローカライズされていること
 ③デザインが地産地消であること
 ④ユーザーの相互乗り入れが可能であること
 ⑤民間主導型まちづくりの拠点になること

渋谷はベンチャーやスタートアップが集う場所になっていますが、地方はなかなかそういうプレイヤーがいないので、地方都市でもあり得るようなUターン・Iターン・Jターンとかで地元でチャレンジしたい人を応援しましょうという場所にしています。あとは、運営者もそれぞれ違うので、自分のキャラに染め上げてくださいと。それに、僕らはデザインもしないんです。作ったあとのメンテナンスのことも考えて、東京近郊は自社でやりますけど、原則はご当地のデザイナーを見つけて、仲間に入れてくださいとお願いしています。それと、ユーザーの利便性を考えて相互乗り入れはOKにしましょうと。

 結構、他のco-baを使う人もいるんですか?

中村 都心のユーザーが地方に行くのはまれですけど、地方から東京出張に来たときに使うというケースは結構ありますね。そして最後ですが、地方で面白い「変態たち」が集まる拠点って、なかなかないじゃないですか。人と人が繋がって次のアクションが生まれるきっかけの場として、co-baという「変態ホイホイをつくるという主旨です。

岩岡 なるほど。この文面の行間はそこにあったんですね(笑)

なぜツクルバはリノベ事業に進出したのか?

次は「cowcamo(カウカモ)」の話に移ります。「カウカモ」は2年前に始めた事業で、中古リノベーション住宅特化の流通プラットフォームです。家を買うのは大きな決断力がいるし、いきなり不動産屋さんに行くのもちょっと怖い。そういう不動産の敷居を下げて、“買うかもしれない”くらいの人たちが集まれる場所をつくりたいと始めたのだそうです。

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cowcamo(カウカモ)のサイト。スペックだけでは語り尽くせない住まいをひとつずつ取材をして、”物語”を集めたリノベーション住宅特化の流通プラットフォーム

「今は、いろんなセレクトショップがライフスタイル領域に手を出し始めていて、リノベーションプランを作ったり、インテリアの方にまで深く入ってきていると思うのですが、これは家がライフスタイルの延長線上に位置付けられ始めている表れだと思う。もうちょっとカジュアルに家と接してもいいんじゃないかなと思っています」(中村さん)

具体的には、厳選した物件をご紹介するWebメディア「cowcamo.jp」で集客をして、お問い合わせをいただいたお客さまに、不動産のプロであるカウカモエージェントが接客をして、売り手と買い手をマッチングして不動産の売買仲介をするというビジネスモデルです。

また顧客と物件に関するマーケットデータを持つことで、“世の中にどんな物件を供給したらお客様に響くのか”がわかるデータベースを自社で独自につくり、事業者向けに情報提供することで、社会に求めてられている質の高い住宅が増えていくという循環を作っています。つまり、エンドユーザーの買主と不動産&リノベーション事業者の売主という2者の思いが交差する場をつくるというのが「カウカモ」の役割です。

「不動産業界はいまだにバイヤーの勘で動いている部分が多く、全然テクノロジー活用が進んでいません。だからデザインも当たり障りのない最大公約数になってしまう。それでは世の中のマーケットが全然よくなっていかないと思うので、ちゃんとお客様の声を聞いて、欲しいものを上回る価値を提供していこうとしています」(中村さん)

「カウカモ」で取り扱っているのは不動産ですから、最初にメディアを訪れてから購入に至るまでには数ヶ月の期間がかかります。この期間に、不動産メディア等のオンラインの接点だけではなく、オフラインのイベントやワークショップなどを開催して、オンラインとオフラインを行き来するユーザー体験をデザインし直しているのだと言います。

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cowcamoの最大の特徴は取材記事の丁寧さと、物語を感じるメッセージ。メディアとして事業者に、物件情報として借り手に、最適な情報を提供するプラットフォームとして設計されている

「売っているものは実空間なんですけど、非常に情報空間的なアプローチですね。建築と不動産とテクノロジーを掛け算しながら、事業をつくって活動しているというのが、僕らのツクルバです。『場の発明』を通じて新しい未来をつくるというのを掲げて、日々活動しています」(中村さん)

“建築ストック”に着目した理由を教えてください

次に、質問コーナーです。休憩中に来場者のみなさんに書いてもらった質問を集め、岩岡がおふたりに質問を投げかけました。その中から一部をご紹介します。

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岩岡 モクチンは木造賃貸アパートの改修レシピを公開しているし、ツクルバもリノベーション事業をしていますが、新築信奉がまだ残るなか、そもそもなぜ“建築ストック”が問題なんですか?

 僕らが木造賃貸アパートの改修に取り組みはじめたのは偶然で、最初は全然興味もなかったんです。僕は父親も建築家なので自然な流れで建築家になりたいと思っていましたが、学生の頃はアイデアをいろんな人と共有することで、一緒に空間や建築を作っていくことに興味がありました。それと情報系に強い慶應SFCにいたので、その影響もあって、ウェブをはじめとしたテクノロジーの力を使えば、今までとは違うアプローチでアイディアが人と共有しうるものになるんじゃないかという思いが強くありました。

そんな中、たまたまリノベ業界のパイオニアであるブルースタジオの大島さんに出会って。ブルースタジオのようにプロとしてアパート再生をやると改修費がどうしても高くなるので、大島さんは当時、違う方法でアパートを安く再生できないかということを当時考えているようでした。そこで当時学生だった僕と一緒に組んでアパート再生を「学生プロジェクト」としてやってみようということになりました。

ただ、実際に一棟改修してみると、それなりに格好よくなってメディアでも取り上げられて、プロジェクトとしては成功だったんですけど、冷静になってみたら、きれいになったのは目の前の1棟だけで。周りを見渡せば同じようなアパートがたくさんあるのに、目の前の1棟だけをきれいにする意味ってどれだけあるのかなと考えてしまったんです。量的にアプローチする方法を考えないと、自分の建築家としての能力を社会に還元することにはならないんじゃないかと。そうした問題意識と、アイディアとテクノロジーの力を使って他者と共有可能なものにできないかという思いが合わさって「モクチンレシピ」が生まれました。

中村 根本的には同じですね。「co-ba」をフランチャイズしている理由として、横展開可能な状態にするためには枠組みをデザインしないといけないし、再生産可能なプラットフォームをつくらないといけない。それは「カウカモ」でも同じで、昔ツクルバとしてマンションのリノベーション案件をやったことがあったんです。。売却時の仲介は不動産仲介会社にお願いしてみたら、なかなか気付きがが多かった。普通の仲介会社の人たちにとってみれば、築古のリノベマンションより築浅のタワーマンションのほうが売りたいし、売りやすいんですよね。

だから、なかなかリノベマンションが売れなくて。「これが売れないなら、世の中のストック活用なんて進まないじゃん」と思って、リノベマンションを供給しているプレイヤーを調べてみたら、販売活動に苦労している人たちがたくさんいた。それなら、この人たちを支援したほうがいいなと思って、自分たちで供給するのではなく、プラットフォーム側に行こうと思ったんです。

 建築ストックを選んだのはたまたまですよね。駆け出しの建築家として社会に対するインパクトを最大化できる対象が、たまたまストック活用だったということかもしれません。世の中的にも8戸に1戸空き家の時代に入っていたり、新築文化が見直されて中古流通どうしようかといわれるタイミングで事業を仕掛けるときに、建築ストックが母数的にメジャーな領域だったので、面白そうだなと。そういうマインドは共通していたのかな、と中村さんの本を読みながら思っていました。

中村 東京の都心に住むとなると、必然的に中古になる。中古を買って住もうと思うと、リノベが必要になってくる。別に僕らは中古至上主義者でもなければ、リノベーション至上主義者でもなくて、都心でリーズナブルに住もうと思ったらその選択が一番賢いというだけなんです。ビジネスとしてもちゃんと成立するよというフレームワークを作ることで、自分以外の主体を巻き込みながら都市を変えていける。

自分が徹夜してしてがんばれば、世の中を変えられる訳じゃないじゃないですか。世の中のプレイヤーにちゃんと儲けてもらって、その人たちが活動することで少しずつ世の中が良くなっていく状況を作りたいと思ったので、ストックのプラットフォーム側に徹しているんですよね。

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最後に、岩岡が恒例のアーキテクト認定に向けて、中村さんに「アーキテクトとは?」という質問を投げかけたところ、中村さんの著書の中から以下の一節を答えとしていただきました。

『アーキテクト』という言葉は、『建築家』という意味以外にも、ビジネスアーキテクト、インフォメーションアーキテクトといったように派生して使われることが増えてきた。アーキテクトの原語である『アルキテクトーン』は、『アルキテクト二ケー』(諸芸を統括する原理、術)の持ち主であると定義されていた。諸芸(テクネー)を統括して、建築を美的な造形物にする芸術家と技術家の役割を同時に担ったのが、アーキテクトだったのだ。かつての諸芸を統括する場は建築物だったのかもしれない。では現代の三種類のデザイン(デザイン、ビジネス、テクノロジー)を統括して生み出されるものは、社会構築に寄与する美しい枠組みなのではないだろうか

(中村真広『場のデザインを仕事にする 建築×不動産×テクノロジーでつくる未来』より)

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今回も満場一致でアーキテクト認定が無事に終了し、トロフィーが授与されました。これからもアーキテクトとしての中村さんの活躍から目が離せませんね。次回の「アーキテクトを探せ!」の開催も、どうぞお楽しみに!

text:野本纏花(@nomado617