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コワーキングを中心としたコミュニティの作られ方。 解体新所#06イベントレポート

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新しい《場》をつくる実践者とともに、そのユニークな構造を考察するトークシリーズ「解体新所 ―まだ名前のない場所を科学する―」。2017年11月7日に開催した「解体新所#06」では、ヤフー・ジャパン/コワーク推進部長 兼 オープンイノベーションユニットサービスマネージャーの植田裕司さんとWORK MILL/岡村製作所ワークプレイスストラテジストの山田雄介さんをゲストに迎えました。今回もホストを務めるのは、創発空間プロジェクトを多く手がけるプロデューサーで、解体新所の“代表研究員”松井創(株式会社ロフトワーク)です。

2016年、ヤフー株式会社がオフィスの移転に伴いオープンしたオープンコラボレーションスペース「LODGE」。総面積1,330平方メートルに及び、国内最大級といわれる「LODGE」は、ヤフー社員のみならず、誰でも無料で利用することが可能です。ヤフーはなぜこのような場を作り、何を目指しているのでしょうか。共創の場として注目されるコワーキングスペースの在り方とは?パナソニック株式会社と株式会社ロフトワーク、カフェカンパニー株式会社が渋谷駅南口にオープンしたばかりの実験区「100BANCH」で、来場者のみなさんとともに語り合いました。

 

いままでの境界を超えた新しい働き方=コワーキングスペース

岡村製作所の山田さん
山田さんが携わる岡村製作所の「WORK MILL」は、2年前からスタートしている“「はたらく」を変えていく”というプロジェクト。いろんな人たちの働き方や働く環境を発信するWebメディア「WORK MILL」の運営とビジネス誌「WORK MILL with Forbes JAPAN」の発行、東京・大阪・名古屋のオフィスに設けた共創空間でのイベント開催、異業種とのコラボレーションによる今までにない働き方の提案プロジェクトなどさまざまな活動が行われているそうだ。

そんなWORK MILLの活動を通じ、世界各国のコワーキングスペースをリサーチしている山田さんは、「昨今、“コワーキング”の意味が拡大化している」と分析します。

「我々は“コワーキング”を、『いつも働いているオフィスで出会うことのない多様な人々と空間を共有しながら働くこと。その中で各人の知識が交わり、新たな価値創造につながる。いままでの境界を超えた新しい働き方』と定義しています。LODGEもコワーキングスペースではなくオープンコラボレーションスペースと謳っている通り、目的に合わせてフューチャーセンターオープンイノベーションラボなど、いろんな名称を使い分けします。もともとは“いろんな人々が空間を共有して働く場”の意味合いから、“コワーキング”という言葉の認知度が上がるにつれ、拡大解釈されるようになったと感じています」(山田さん)
「我々はコワーキングをCo-Creation Spaceと呼んでいる」と語る山田さんは、一緒に集まった人々と新しい価値を創り出していくスペースとして、「環境・健康・小売り・コミュニティ」の4つの切り口で、世界のユニークなコワーキングスペースを今回紹介してくれました。

<環境の例>

アメリカのデンバーにある「Greenspaces」。ハーバード大学で環境工学を専攻するファウンダーが、環境に優しいビジネスを展開している同志を集めたいとオープンしたスペース。例えば価値観の近しいシェアリングエコノミー系の企業が集まっているのも特徴です。

Greenspaces

<健康の例>

パリにある「kwerk」。「満足感・安心感・充足感をワーカーに与える」コンセプトのもと、家具メーカーと共同開発した高さを変えられるテーブルで立って働けるほか、自然光を取り入れてナチュラルライトをワーカーに浴びさせる設計になっている。機能面では、ヨガや運動ができるスポーツジムや瞑想ルーム、シャワールームが完備されている。 

<小売り>

サンフランシスコの「Bespoke」はショッピングモールの4階にあるコワーキングスペース。リテール系の起業家やスタートアップ企業が集まっている。運営元はショッピングモールの投資部門であり、コワーキングスペースの中にショッピングモールと面したデモスペースやイベントスペースを有している。会議室を仮店舗として試作品を販売することも可能。

Bespoke

<コミュニティ>

来年、日本オフィスのオープンが発表されている「WeWork」。特徴は「WeWork Commons」というFacebookとLinkedInが一体化したようなコミュニティ・プラットフォーム(アプリ)を提供しており、世界50ヵ国200拠点に広がる約14万5千人のメンバーとつながることができる。
次に、日本で展開されるコワーキングスペースについて、「ビジネス」「自治体」「大学」という属性で紹介が続ききます。

<ビジネスの例>

いろんな企業がビジネスを目的でコワークキングスペースの提供を始めているほか、不動産や電鉄会社などのインフラ系企業がコワーキングスペースを事業展開する動きも出てきている。例えば三井不動産の「WORKSTYLING」、東急電鉄の「Newwork」、ザイマックスの「ちょくちょく」など。
札幌の「Space KANTE」は、語学学校が一つの機能として運営しているコワーキングスペース。語学学校らしく語学に関する書籍や旅行雑誌などのライブラリースペースやカフェには日本語を学びに来る外国人が休憩時間に集い、インターナショナルな空間が生まれている。

<自治体の例>

首都圏では品川区の「SHIP」。福岡市が福岡地所、さくらインターネット、アパマンショップとともに展開する「Fukuoka Growth Next」は、官民共働型スタートアップ支援施設。築100年の小学校を取り壊すまで、リノベーションしてコワーキングスペースを提供している。

<大学の例>

関西大学 梅田キャンパスにある「KANDAI Me RISE倶楽部」。会員制のサロンで、学生とOBをつなぐ役割を果たしている。

「今とにかくコワーキングスペースは右肩上がりで増えています。今後は競争が激化し、変化がみられるんじゃないでしょうか。”コワーキング黎明期”が今の日本の現在地ではないかと思います」と語る山田さん。コワーキングスペースがもたらすものとして、自分と異なる人たちや環境に交じり、新たな価値創造の起点となる「イノベーションを生み出す働き方」と、個人の事情や制約に合わせ、リモートワークに活用することで中長期的に生産性高く働ける“働き方改革”を実現する「サスティナブルの高い働き方」という2つの働き方があるのではないか、と話し、プレゼンテーションを締めくくりました。

情報の交差点としてLODGEが生み出すもの

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続いては、Yahoo! JAPANの植田さんからLODGEについての紹介です。

ヤフージャパン植田さん

「ヤフー株式会社は創業21年目、現在の従業員数は約6,000人。100を超えるサービスがあり、様々なデータをクロスユースできるところが強みです。昨年11月にオープンしたLODGEは、毎日朝9時から夜9時まで、イベント開催時は23時までオープンしています。18時以降は持ち込みで飲酒可能。400坪のスペースに、スタジオ・イベントスペース・キッチン・カフェ・レストラン・Fabスペースなどがあります。昨年20周年を迎え、特別プロジェクトとして本社を六本木から紀尾井町に移転しました。その際に、ただ働く場所を変えるだけではなく、「!(びっくりなサービス)」を生み出すようなリズムを手に入れようと打ち出し、いろいろな仕掛けをこのオフィスに詰め込みました」(植田さん)

「!」を生み出すために必要なものは“情報の交差点”を作ることだと言います。

「ヤフー社員は極端な言い方をすると凡人の集まり。凡人が新しい発想を得て奮い立つには、普段交わらない人と話しまくる環境を用意しようと、社内にいろんな“情報の交差点”を作ることをコンセプトにしたんです」と植田さんは話し、交差点のパターンには「ヤフー社員同士の交差点」「社員と社外の交差点」「社外同士の交差点」という3つのパターンがあると語りました。

LODGEがオープンする前はアプリエンジニアだった植田さん。17階にまで人は来てくれるのかと不安だったと言いますが、ふたを開けてみると1年間の延利用者数は93,000人。毎日250人〜350人の利用者があり、イベントの実施回数は500件にのぼると言います。そんな多くの人が訪れる“情報の交差点”では、いったいどんなコラボレーションが生まれたのでしょうか。植田さんから紹介が続きます。

<DMM.Africa×タイガーモブ>

先日、六本木に移転したDMM。引っ越しの端境期にDMMから、「うちの社員があふれちゃったからLODGEを使わせてくれませんか?」と連絡がありました。気軽にOKしたところ、DMM.Africaで働く10数名の外国の方が訪れ、突然、国際色が豊かな状態になったんです。一方、LODGEがオープンして間もなく、自社のオフィスを引き払ってLODGEを利用していたスタートアップのタイガーモブ。両社をLODGEのコミュニケーターがつないだところ、意気投合して「STARTUP AFRICA」というビジネス視察兼海外インターンシッププログラムがスタートしました。

<植田さんと社外のコラボレーション>

4月頃、オフィス内で落合陽一さんの展覧会を実施。オフィスの中にアート作品を展示することはヤフーにとって前代未聞の取り組みとなりました。「ヤフーが提供するサービスは30代・40代の男性の利用者が多く、若年層は比較的少ないのですが、落合さんは大学教授をされていらっしゃることもあり、10代・20代の方がたくさん来社して、ヤフーに好印象を持ってもらえたというところで良いコラボレーションになったと思います。

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Yahoo! JAPAN Technology Art #01 ジャパニーズテクニウム展 by 落合陽一とデジタルネイチャーグループ

オープンから1年が経ち、「!」を生み出すために、今後は“質の良いヤフー社員と質の良い社外の方”をどれだけうまくつなぎ、掛け算を最大化させることに注力していくと植田さんは語ります。「11/1からメンバーズカードの配布を開始しています。発行する際に、この人は何が得意でこういう仕事をしている人だといった情報を取得することで、仕事の依頼や会話のきっかけにしていこうと思っています。

加えて、定例的にライトニングトークイベントやランチ会を開催して、社内と社外をつなげる仕組みを作っています。また、大切なのはヤフー社員の本業に、LODGEがリーチすることかと思います。私一人が数千万の成果をあげても仕方がなくて、社外の方の知恵を活用し、約6,000人の社員が自分の仕事に100万円の成果をプラスできれば、それだけで60億になる。社員をうまく巻き込んで大きなうねりを作ることこそ、あえて会社の中にLODGEを作った意義だと考えますし、ひいてはヤフーが社会課題を解決していることに繋がると考えています」と植田さんは話し、オープンイノベーションな働き方を社内にインストールすることこそ、ヤフーがLODGEを運営している本質だと語りました。

未来のコワーキングスペースはどこへ向かう?

会場の様子

松井 山田さんは海外、日本合わせて80ヶ所くらいのコワーキングスペースをご覧になってきたそうですが、全国的にはどのくらいの数のコワーキングスペースがあるのですか?

山田 コワーキングスペース専門のポータルサイト「Coworking Japan」によると現在、約700の登録がありますが実際はそれ以上あるのではないでしょうか。コワーキングスペースはサンフランシスコが発祥の地で、フリーランスや起業家が多く利用するワークスペースとして定着しているのですが、日本は世界に比べてフリーランスや起業家がまだまだ少ないため、もしくは彼らのためのスペースという印象が逆に強く、一般的なワークスペースとしての認知度が低い。そんな中、ようやく企業に属する人たちが使い始めたことで利用者が増えてきている、のが日本の傾向だと思います。

松井 日本のトレンドとして、営業マンがオフィスに寄らずにコワーキングスペースで仕事をする方向で行くのか、Co-Creationの文脈で社外の人同士で新しい価値を生み出すのがトレンドになっていくのか、どちらだと思われますか?

山田 マスでいうと、前者だと思います。社会トレンドにも合致して増えていくのかなと。後者はどうしても中長期的なスパンになりますし、人が集まったからといって結果が出るわけではありませんので。ただ、やっていかなきゃいけないのはイノベーションのところなので、ヤフーのように仕掛ける側がいないと成立しないですね。

植田 LODGEもまだまだインフラとして使っている人は多いので、コミュニケーターがとにかく話しかけることで、集中して作業する場ではなくコミュニケーションを活性化する場だと伝えているところです。

松井 なぜコワーキングスペースのような場所が必要になってきたのだと思いますか?
山田 ひとつはテクノロジーの進化が大きいですね。会社に居なくても仕事ができ、家だと働きづらい人が作業場を求めている。あとは、目的を持った人がネットワークを作りに行くからではないでしょうか。
松井 WeWork Commonsは、その象徴だと思いますが、デジタルで世界中とつながれたとしても、あえてリアルな場を用意するのはなぜですか?

山田 リモートワークを推進している企業が、オンラインでやり取りが成立できたとしても、一回会うプロセスを採っている場合は多いです。一度も会っていない人と、一度会った人とでは、リモートでコミュニケートするときの質が違うそうです。WeWorkはコミュニティのプラットフォームとスペースの両方を提供しているところがうまいですよね。

松井 ちなみにLODGEを無料にした意図は何ですか?

植田 LODGEを有料で運営したとしてもヤフーが目指す売上には届かないと思うんですよね。無料で1年やってきた中で、ファンはすごく増えたと思っています。そういった人とうまくつながって、例えば、サービスのプロトタイプをユーザーテストしてもらったり・・・GIVE&GIVEの精神で与えることで返ってくるものがあることが明確になってきました。

コワーキングスペースの運営は昭和に学べ!?

松井 個人的に解明したい課題として、これからのコミュニケーションを加速する空間、つまり従来のタバコ部屋のようなものに代わるスペースってどんな姿なのだろうと。例えば、キッチンが1つの答えだと考えています。
山田 早稲田大学と弊社のオフィスで実験したところ、40秒以上滞在したときに会話が生まれる数が増えることが分かりました。40秒滞在させるコンテンツが必要ということですよね。我々はカフェの周りにマンガや雑誌を置いたり、飲み物を作るときにあえて40秒かかるプロセスを設ける取り組みはしているのですが。
植田 その秘策で真似していただきたいのがBALMUDA The Toasterです。LODGEに置いたところ、使いたいからパンを買ってくる人がいて、焼きあがるまでに2.5分かかるので、その場で待つ人と、パンの匂いにつられて来る人とのコミュニケーションが生まれています。
山田 いきなり知らない人同士が集まってコミュニケーションしろと言っても接点がないので、仕事以外の趣味をいくつか仕掛けてつなげておくといいですね。いざ仕事のタイミングになると気軽に話しかけられるというワンクッションのバッファを企業が許容しておくわけです。

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トーク・セッション後半には会場のみなさんからの質問も募りました。

会場1 今日のお話は規模が大きい話が多かったと思いますが、スペースが小規模な場合、最大限スペースを有効活用するために押さえておくべきポイントを教えてください。

山田 スペースが限られているのであれば、空間を可変的に設計しておく必要があります。つまり、デスクを動かしてレイアウト変更に対応できるようにしておくことと、壁もパーテーションにして動かせるようにしておくといいと思います。機能的なところでは、飲食ができる場は必ず設けた方がいい。飲食物に人は集まってきますので、手っ取り早いタバコ部屋代わりになります。あとは、メンバー同士の興味関心を知る機会を設けることですね。無関心が一番良くないので、関心を持つきっかけを作る工夫をしていただければと。

植田 追加でアイコン的な人を準備するのは、すごくいいと思っています。来ている人同士のつながりもそうですが、この人がいるから会いに行くことは、いろんなパターンで作れると思いますので。
会場2 良いコミュニケーターの素養は何だと思いますか?

山田 日本ではまだコミュニティマネージャーという職業は定着していませんが、海外ではたくさんいます。個人的な感想でいうと、寂しがりやな人が良いのではないかと思いますね。つまり人と関わり合うのが好きという意味で。人に興味がある人は、人と関わり合いながら点と点を結びつける役割を果たせると思います。

植田 スナックのママ的な存在ですよね。スナックのママを呼んでLODGEスナックというのをやってみたのですが、すごく感じが良いし、嫌味がないし、良いつなぎ方をするんですよ。そういった人の知見を得るのが良いのではないかと思いました。

松井 今日は未来の話をしようと思っていたら、スナックやタバコ部屋といった話が出てきて、昭和に基礎があるような気がしてきましたね(笑)

登壇者との集合写真

松井研究主任からの感想

日本でもコワーキングが存在感を増しつつあるが、まだ“黎明期”だという。今後もビジネスマン達のサテライト利用が主流になることは明らかだが、それ以上にオープンコラボーレションとしてのコワーク文化の発展に期待したいし、個人的にも寄与したい。

山田さんの事例からは、コワーキングといっても様々な切り口が生み出せると知れた。ショッピングセンターの中にテストマーケティングを兼ねたスペースがあってリビングラボ的に機能している例も面白い。語学学校のスクールとラウンジを兼ねてビジネス的に一石二鳥を狙うという既成ビジネスとのマッシュアップ型も今後、増えそうだ。

オフィス進化系ともいえる企業型コワーキングのなかで最大級のLODGEは、1周年を迎え存在感を増しつつある。「一つの大成功を目指すより、小さな成功体験とその交流からうまれる成果の集積でインパクトを出したい」と植田さんはいう。LODGEで気づいたコワーキングの必須機能は、「スナックのママ的な存在」だったことは特筆しよう。

コワーキングが会話が始まる場所であり、人と人が交わって何か新しい価値を生み出すイノベーションの交差点だとしたら、そこには何があると良いだろう。たとえば「ここで人事は決まる」と言われたタバコ部屋に代わりえるものとは、「40秒以上の対話が生まれる仕掛け」とはなんだろう。

聞き慣れた始めたコワーキング・スペースにも、まだまだ発明の余白がありそうだ。

 

テキスト&構成:野本纏花(@nomado617