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地域資源としての保育の場《まちの保育園・こども園》を科学する -解体新所#04レポート- 【前編】

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新しい《場》をつくる実践者とともに、そのユニークな構造を考察するトークシリーズ「解体新所 ―まだ名前のない場所を科学する―」。2017年6月8日に開催した第4回では、「まちの保育園・こども園」を運営する松本理寿輝さん(ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役)をゲストに迎えました。ホストを務めるのは、創発空間プロジェクトを多く手がけるプロデューサーで、解体新所の”代表研究員”松井創(株式会社ロフトワーク)です。
「子どもと共働きの親のための児童福祉施設」と思われがちな保育園。でも松本さんが掲げる「まちぐるみの保育」においては、保育園は地域の資源であり、まちづくりの拠点であり、社会をつくる場所だと言います。その意図するところは? そして、どんな場づくりを行っているのか? 都内4園の経営を担い、保育の現場づくりを中心に、時に政策提言まで活動する松本さんに、自身も1歳児の父である研究員・松井が、たっぷりお話を伺いました。「まちの保育園・こども園」という新しい場の解体に挑戦します。前半は松本さん自身のまちの保育園の取り組みについてのプレゼンを紹介します。

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まちぐるみの保育とは?

「保育の領域の話をするのに、こういうクリエイティブな場所で、これだけ多ジャンルの方がたくさん集まるなんて、10年前では想像がつかなかったことです。社会が動いているのを感じます。今日は皆さんとの対話を楽しみたいと思います」

柔らかな表情でそう話しはじめた松本理寿輝さん。イベントでは、まず松本さんが取り組む乳幼児教育や子どもの場づくりの基礎的な考え方や仕組みについて紹介いただきました。現在、ナチュラルスマイルジャパンが運営している乳幼児教育の場は、都内に4箇所。「まちの保育園」3園(小竹向原、六本木、吉祥寺)、そして「まちのこども園(※)」1園(代々木上原)です。また、今秋に代々木公園内に新たな認定こども園を開園予定です。
※認定こども園:教育・保育を一体的に行う施設で、幼稚園と保育所の両方の良さを併せ持っている施設のこと。>> 詳しくは内閣府のウェブページにて

どの園にも「まちの」とつけているのは、「まちぐるみの保育」を目指しているから。保育士や教師だけではなく、地域のいろいろな人に協力してもらいながら、子どもの環境を豊かにしていきたい。そんな考えを持つ運営方針です。

「子どもはひとつのことにのめり込んでいる人と一緒に追体験すると、その面白さをより深く学びます。様々なプロフェッショナルとかその領域のことが大好きな人達に、まちから来てもらって、子どもたちと一緒に活動してもらえたらいいなと考えています」

そんな想いから展開しているまちの保育園・こども園には、ユニークな特徴がいくつもあります。

・保育士の他に「コミュニティ・コーディネーター」を正社員として各園に配置。保育園と地域の橋渡しをし、良い出会いと多様な人が繋がる場づくりを行う。
・子どもの興味関心に応じて地域の人や外部の専門家、クリエイターを招聘し、学びを提供したり、子どもと一緒に探究したり、フィールドワークや、ものをつくったりする機会を多くつくっている。
・「まちのパーラー」「まちの本とサンドイッチ」など食を通じて人々が集まり、賑わう店舗を保育園に共に設けている。

まちづくりの拠点としての保育園・こども園

0歳から6歳までに体験したこと、出会った人、育った環境が、その子の学ぶ力や創造性に大きく影響を及ぼす――。昨今の教育や発達に関する研究ではそんな結果が発表されています。子どもの自発的で創造的な学びを支援する「アクティブ・ラーニング」型の幼児教育を推進する松本さんが、保育園に多様な人が関わる仕掛けを設けているのは、(実現するのはとてもとても大変なことですが)ある意味とても合理的な場づくりといえます。

ただし、まちの保育園の取り組みは「通園児のためだけではない」と、松本さんは言います。その根底にあるのは、「保育園や幼稚園はまちづくりの拠点になれる」という信念です。

まちづくりにおいて、多くの地域で挙げられる課題のひとつに「地域交流の希薄化」があります。特に交流が希薄化しているのは、高齢者世代と若い世代。その課題解決アプローチとして、松本さんは保育園に可能性を見出しています。

「高齢者世代のネットワークは、意外と町内会や自治会、福祉セクターが頑張って繋いでいます。むしろ若い世代のネットワークを育む仕組みのほうが、全国的には不十分。だけど実は、保育園・幼稚園って、地域の中で若い世代が毎日集まる場所なんですよ。保護者の年齢は、おおよそ20代〜40代。しかも保育園・幼稚園は、家庭における子育ても支援する役割があるので、どのような家庭がどういった状況や想いでどんな風に子育てをされているかよくコミュニケーションをとっている。そう考えると、保育園・幼稚園は、若い世代が毎日通い、毎日会話し、お互いを深くよく知っているネットワークなんです。しかも最近の保育園・幼稚園は、地域全体の子育て家庭に手を差し伸べる役割も担っています」

まちの保育園・こども園では、そのような性質を活かし、若い子育て世代と地域の町内会や自治会(=高齢者ネットワーク)とを繋ぎ、まち全体の関係性を繋ぐ取り組みも行っています。「保育園や幼稚園は税金でつくられているんだし、地域の財産でもある。もっと地域に開いて、地域の色んな人が来て繋がれる場に」。それが松本さんが「”まちの”保育園」の名に込めたもう一つの想いでした。

松本理寿輝さん

段階的に解放する建築的工夫

ただし、繋がる場・開く場といっても、幼い子どもを預かる場所である以上、安心・安全の教育/保育環境を担保しないといけません。まちの保育園の空間的なポイントはどこにあるのでしょうか? 最初の施設となった、小竹向原の図をみると安心・安全を保ちつつも、「段階的に開放できる建築的工夫」が施されていました。

小竹向原 仕組みイラスト

小竹向原の保育園併設のカフェ「まちのパーラー」のベーカーリーは遠くからでも人を呼ぶ人気の飲食形態。パン人気を上手に取り入れ、運営されている(※カフェ事業は委託)。お酒もOKにしたことで、子どものお迎えついでに堂々と飲みにいけるとお父さん達からも好評とか。保護者同士の集まりの場にもなっている。

「まちの保育園 小竹向原」の作られ方
・入口は「カフェ」=地域の人がいつでも誰でもきてOK
・ひとつ奥に「ギャラリー」=セキュリティが保たれていて開放/非開放が調整可能
・さらに奥に「玄関」=ここを施錠すればギャラリーまで開けてもOK
・そのさらに奥に「園庭」=保育室を経由しないで入れるので時に開放することもできる

つまり、カフェはいつも解放していて、ときどきカフェ+ギャラリーを解放する日もあれば、カフェ+ギャラリー+園庭までを地域に開放することもできる、段階的なセキュリティ設定ができる構造です。

まちの保育園-六本木に併設されているカフェ「まちの本とサンドイッチ」-(1)

小竹向原の次に開園した「まちの保育園 六本木」には、「まちの本とサンドイッチ」が併設。忙しい都会のまちではあるが、対話が楽しめるスタンド的なしつらえになっている。

まちのガーデン

さらに六本木では、約200㎡の未利用地を借りて、園に通う子どもやその家族、地域の人と開拓していく「まちのガーデン」も展開。

次の挑戦は、代々木公園の中の「こども園」兼 実践者のための学びの場

日本の乳幼児教育の場づくりの常識を覆す、松本さんの挑戦。でもまだまだ試みは続きます。今年2017年10 月にはなんと、代々木公園の中に認定こども園をオープンします。

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「まちのこども園 代々木公園」完成イメージ。
国家戦略特区」の枠組みで、公園の中に認定こども園をつくる。

「まちのこども園 代々木公園」は、代々木公園が多国籍・多文化な場所であることから、木造建築施設には大きな土間スペースを設け、そこを地域交流拠点にすると同時に、国際的な幼児教育・保育の研究センター(CCLC)を設ける予定です。

乳幼児教育で世界的に注目されているイタリアのレッジョ・エミリア市の教育センターと一緒にコラボレーションし、世界中の乳幼児教育や保育の実践を照会できる場所。同時に、日本の乳幼児教育の実践を国際的に発信する拠点にしていく構想です。

渋谷は、文化的にも資源が豊かで、新しいカルチャーの発信地。そして”違いを力に変える”コンセプトを掲げ、ダイバーシティを推進しているまち。僕自身も、もしかすると子どもという存在自体がマイノリティになっていやしないか? と課題を持っていました。だからそういった課題や、解決のための実践をここから発信していきたい。そんなこども園にする予定です」と松本さんは、その思いを明かします。朗らかな笑顔をたたえながら、考え、対話し、様々な場所を移動する松本さんの日々は、ますます忙しくなりそうです。

続きは、後編へ

構成&テキスト:中田一会