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大きな公共から小さな公共まで《エリアリノベーション》を科学する -解体新書#03レポート

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新しい《場》をつくる実践者とともに、そのユニークな構造を考察するトークシリーズ「解体新所 ―まだ名前のない場所を科学する―」。2017年4月20日開催の「解体新所#03」では、青木純さんをゲストに迎えました。今回もホストを務めるのは、創発空間プロジェクトを多く手がけるプロデューサーで、解体新所の”代表研究員”松井創(株式会社ロフトワーク)です。

青木さんは、株式会社ネスト代表取締役、株式会社まめくらし 代表取締役、株式会社都電家守舎 代表取締役、株式会社北九州家守舎 取締役、株式会社リノベリング 取締役、株式会社タンガテーブル 取締役、株式会社ルーヴィス 取締役…と様々な顔を持つ「大家さん」であり、街そのものを設計してゆく”まちづくり”の実践者です。

 
 

市民がつくるこれからの小さな公共と大きな公共の話

「僕は、境界線のないまちづくりがしたい。家もお店も商店も商店まちも道路も畑も公園も、境目が何もない。縦割りの社会の中でこれを実現するのは、なかなか難しいんですけどね。難しいと思うと何もできないので、できそうだと思って始めています」

そう語る青木純さんの職業は「大家」。青木さんが手がけた「青豆ハウス」は世界的にも注目を集めています。「育つ賃貸住宅」をコンセプトに住民参加型で住まいとコミュニティを育てていく共同住宅です。さらに3つの会社で代表取締役、4つの会社で取締役を兼任。それらの会社が手がけるのは、賃貸住宅運営はもちろん、 暮らし方と生き方、そして「リノベーションまちづくり」に関わるありとあらゆるお仕事です。

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この日の解体新所は、青木さんによる「市民がつくるこれからの小さな公共と大きな公共の話」についてのプレゼンテーションからスタートしました。

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目指すのは「境界線のないまち」

 
 

3日間合宿でプランを提案! リノベーションスクール

まずは、大きな公共の話。現在、青木さんは、東京都豊島区や、山梨県甲府市、福岡県北九州市などの地域で、まちなかの遊休不動産を再生・再活用し、そこから魅力的なエリア形成を図る「リノベーションまちづくり」に関わっています。

そのひとつが「リノベーションスクール」。まちづくりに関心の高い参加者を募って、テーマに設定された地域や物件をリサーチし、短期集中でまちづくりプランを発表する取組みです。リノベーションスクールは、2011年の東日本震災直後、建築関係者による北九州でのリノベーションシンポジウムをきっかけにスタートしました。以来、現在までに全国35のまちでリノベーションスクールが開かれ、卒業生はのべ2,817人。スクールから生まれたプロジェクトが50件、まちの大家さんを担う「家守舎」は31チーム誕生しました。実際にそれまで遊休空間として眠っていた物件がリノベーションされ、事業として稼働し、新しい仕事や場が生まれることで魅力的なエリアが誕生しています。

今回のトークも、解体新所の”助手”役、ロフトワーク・杉田真理子が「リノベーションスクール@東急池上線」に参加し、ユニットマスターを務めていた青木さんと出会ったことがきっかけでした。(レポート

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リノベーションスクールの様子(http://renovationschool.net/

はじめは建築関係者だけではじまったリノベーションスクールも、現在では幅広い層に広がり、クリエイターやまちで実際に商いを行う人、暮らす人、大学生、行政職員…と多様な参加者に支えられています。先日開催された神奈川県川崎市や静岡県沼津市のリノベーションスクールでは、中学生や高校生が不動産オーナーや市長の前でまちづくりプランをプレゼンする場面もあったとか!「これも新しい公共の作り方」と青木さんは顔をほころばせながらお話しされていました。

青木さんは、このリノベーションスクールでユニットマスターやアドバイザー/ライブアクターといった役割を担い、実際のプロジェクトを立ち上げ、新たな物件のリノベーションと経営を手がけています。ただの提案でとどまらず、実際のビジネスやシステムに落とし込んでいくことで、まちを再編集しつづけています。
 
 

まちは「暮らしのステージ」という考え方

続いて青木さんが紹介したのは、東京都豊島区・南池袋公園のプロジェクト。少子高齢化が進み「消滅可能性都市」とも言われる豊島区で、市民が責任を持って使い・遊び・維持していくことを目指した新たなカタチの公園です。

MINAMI IKEBUKURO PARK opening movie from Minami Ikebukuro PARK on Vimeo.

上の動画の中で展開される「未来の日常」のような公園のリニューアルオープンの1日を演出したのは、青木さんです。ヨガ教室、トークイベント、ワークショップなど様々なプログラムが展開され、老若男女それぞれが天然芝の公園を楽しむ景色。以前は、暗くて風紀も悪かったというこの公園は、今では雰囲気も刷新されました。

「僕はまちは暮らしのステージだと思っているんです。新しい南池袋公園はメディアで豊島区なのにパリみたいと言われたりしました。行政が本気を出したって。でも本気を出したのは行政だけではなく主体は市民。これが僕が考える大きな公共の話です」。

公園がきれいに整備されただけではまちのリノベーションにはなりません。周囲の企業や店舗、市民、運営に関わる組織の主体性と創造性が必要で、連携し続けないと幸福な景色は続かないからです。青木さんは、そのために新たに企業も立ち上げて、行政と一緒に足並みを揃えたPPPエージェントを形成しました。

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マーケットが出店し、地元のバンドがステージで演奏をするなど、にぎやかな南池袋公園。ナイトウエディングなどの新しいプロジェクトの計画も進行中。

 
 

飲食店も賃貸住宅も小さな「公共」

そしてもうひとつ、その日のキーワードとして登場したのが「小さな公共」です。「僕は飲食店も小さな公共だと思っています。まちの中の一番小さい公共は、こういう空き店舗を使って新しいコンテンツを自ら作ること」と語る青木さんは、まちの飲食店「都電テーブル」も経営しています。もともと事務所だった空間を少しだけきれいにして、一番本質的な価値=「美味しい」を提供する。都電テーブルでは、全国をめぐり高品質な食材を仕入れ、シンプルな味付けの料理を提供し、ワークショップ等も開催しています。

その結果、最初はビジネスマンがランチタイムにしかやってこなかったお店に、ベビーカーをひいたお母さん集団が貸し切りでゆったりとした時間を楽しむような使いかともしてもらえるように。ビジネス街で、本当に美味しい食事を、子連れで安心して食べられるお店はなかなかありません。現在、都電テーブルはどんな時間でも様々な人で賑わい、交流が生まれる場に育ち、地域の雇用も生まれています。「テーブル」という店名なら、洋食も和食も出せる。食を通じた公共空間ができあがっています。

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育つ賃貸住宅「青豆ハウス」

さらに育つ賃貸住宅」として注目を集める東京都練馬区の「青豆ハウス」も小さな公共空間です。賃貸住宅でありながら、竣工前から住人を募集し、豊かな暮らしの実践者になりたい8世帯の住人を集めました。住宅の仕上げを共に作業し、完成してからは地域のお祭りを開催したり、一緒にピザ窯でピザを焼いたり。バラバラの人達がひとつの家族のように暮らしています。

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その過程は、成長日記ブログ「そらと豆」に綴られています。青豆ハウスでは、誰が住むとか、誰と暮らすか?が大切にされています。

「こういうことをやっていると、大変じゃない? 無理していない? と言われるんですけど、僕らはいたって普通で、無理することは絶対にしないんです。「無理せず気負わず楽しむ」ルールがある。この家訓のみで、住宅は成立しています」という青木さん。大家業からまちづくり、小さな公共から大きな公共まで実践者として関わる情熱が伝わってくる素晴らしいプレゼンテーションでした。
 
 

自分ごとにしてプロジェクトに飛び込み動かす

さて、青木さんによるプレゼンテーションの後は、来場者も参加するセッション。研究員・松井とともに、質疑応答を重ねながら青木さんの活動の要素分解に挑戦しました。

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松井 そもそもなんで、大家さんである青木さんがまちづくりをしているのでしょう? 背景を教えていただけますか?

青木 最初に手がけたカスタマイズ賃貸住宅は、実は僕が生まれ育った場所なんです。親族が賃貸住宅運営をやっていて。築年数が20年を超えていて、市場の競争力も弱くなってしまった。それで、僕は当時は企業で働いていたのですが、自分が大家業をやることに決めました。でも、2011年の東日本大震災の後に、空室率が3割近くになってしまった。
そして試行錯誤の結果、僕が引き継いで1年ちょっとで満室稼働できるようになりました。賃貸としては珍しいぐらい住人も長く住み、カップルで入居した人は結婚して子ども生まれました。そのうちに彼らのために幼児教室を誘致したり、シェアオフィスや飲食店をマンション内につくって、自分で経営してみた。そうした活動が重なっていって、結果、それは外から見たら「まちづくり」といわれるものだったんです。

松井 「コミュニティ」という言葉が苦手だともおっしゃっていましたが、第1回の解体新所でMAD Cityプロジェクト(千葉県松戸市)の寺井元一さんも同じように、コミュニティという言葉を使いたくないと言っていました。「アソシエーション」だと。ゆるやかなつながりの中で、お互いがお互いを越えればいいじゃないかと。それは青木さんとも近いですよね。

でも、寺井さんは、プロジェクトを仕掛ける側として一歩引き、まちを俯瞰しているスタイル。松戸市に住んでいない。一方で、青木さんは、自らが作り出した場所のど真ん中で一緒に暮らし、楽しみ、まわりの人を巻き込み、影響を与えている。それは意図的ですか?

青木 寺井君は、それができる人です。でも、僕は自分ごととしてやっていないと、何も動かせないんです。だからその場に入る。北九州などで手がけているプロジェクトは、自分の住む場所ではないですが、リノベーションスクールをきっかけに生まれた案件で、出資もして、コミットもして、自分ごととして関わっています。
 
 

知恵を使った「青豆ハウス」のご近所づきあい

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近隣住民にもファンが多い、「青豆ハウス」の黒板。メッセージは全て「青豆ハウス」住人の手描き。

参加者 青豆ハウスとか、植物を育てるイメージだと思うんですけど、植物は環境が不天候だったり、冷害があると、育たないこともあると思う。そのときにコントロールできないものをできるように持っていく、栄養剤的な役割みたいなものはあったりしますか?

青木 コミュニティは勝手に育つものだと思う。だからコントロールしようとはしていない。ただ、無理せず気負わず楽しみ、縛ったり、求めたりしないことは大事にしています。たとえば、全員に来てくださいとは言わない、とか。

周辺住民との関わりの中では、時にトラブルもあります。青豆ハウスでは敷地内に自分たちでピザ窯を作り焼いているとススが出て洗濯物につくと近隣の方から苦情がきて。大事なのはうろたえずに真摯に謝ること。そのときに全部ひっこめると、次のトライができないので、開催頻度を下げたりとか、時間帯を工夫したりしました。

そして、相手に今度からピザを焼く時は必ずご案内をしますと約束しました。だけど、そのご案内、実はピザパーティへの招待状になっているんです。そうやって、少しずつクスッと笑わせるような余白があると、苦情もなくなったんですね。

それから、花壇にタバコのポイ捨てをされたり、花を抜かれたりすることもあって。でもそこで塀を建てたら終わり。僕らが思いついたのは板に黒板塗料を塗って、メッセージを書くこと。最初は「花を抜かないでください」とか、まともなメッセージだったんですけど、それだと無視されました。しかし、あるとき住人がその黒板に「今日は母の日ですね」と書いたら近所のお母さんたちに気に入ってもらい、彼女たちが花壇を見守ってくれるようになったんです。

それ以来、黒板に「今日は●●」と書くシリーズが始まりました。「今日は潮干狩りに行って来ます」「防災意識を持ちましょう」とか書いて、そのうちに黒板ファンがすごく増えて来て。みんな立ち止まるんです。元気になったと、手紙をもらったり。公共のヒントはそういう工夫にこそ潜んでいるんじゃないかと思いました。
 
 

暮らしに公共性を求めるのは「続けたい」から

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参加者 プレゼンのテーマが「大きな公共と小さな公共」ですが、「公共」にこだわるのは、どんな問題意識があるのか、お聞きしたいです。

青木 「公」と「私」のあいだに公共があるとよく言いますよね。私的なことって、簡単にほころび、薄れていくんです。たとえば賃貸住宅がそうですが、すごく魅力的な住人が集まっても、結局、閉じたコミュニティじゃないですか。でも、少し風穴をあけて公共につながる。たとえば道路に面したところを、住人と地域の人が一緒に使えるコワーキングスペースにしたり、人が集まるカフェにしたり、そのことによって閉じていたコミュニティが魅力的に続いていく。公共を求めることは、持続的性を求めているのかなと思います。この魅力的な風景が長く続いてほしい。次の世代にバトンをわたすために、公共にもこだわる必要があると思っています。

松井 まちづくりは永遠に続くものだと思いますが、そのなかで青木さんご自身はどんな時間軸で目標を設定されていますか。まずここまでやろうという、その時間の単位はどれくらいです?

青木 僕は「明日」です。明日どうなっているか考える。先のことを見越して、何ヶ月後にこれをやると言っても、絶対に実現しないので、小さくてもいいから一月以内に何かを始めるのがいいと思う。

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青木さんの最新プロジェクト「高円寺アパートメント

”小さなショップや日常使いできる飲食店が軒を連ねる1階。服の仕立てやものづくりのアトリエを兼ねられる、自由なアトリエ兼住宅。単身、二人暮らし、子育て中の家族まで住むことができる、多様な住まい。建物の顔となるのは、地域に開かれたオープンテラスと芝生広場。ゆるやかな大階段は、小さな商店街へのアプローチ。建物北側には、静かなハーブ&ベリーガーデン。植物の成長を楽しむ、暮らしに豊かさを与えてくれます。”(同コンセプトより)

 
 

住人選びも空間づくりも直感を信じる

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参加者 青木さんは「まちづくりはキャスティングだ」と言いますが、青豆ハウスなら住む人、お店ならそこに立つ人をどのように選んでいますか?

青木 参考にならない答えでいいですか? 120%、直感です。自分が酒を飲んで楽しいと思える人。自分がグダーッとしているとき、そばにいて疲れない人。本当に相性で見ています。そういう人って、会った瞬間に分かりますよ。そんなもんじゃないですか。

賃貸住宅って申し込み書類だけで審査されますよね。僕はそれが嫌で必ず居住希望者に会うんです。「前はどんな住まいに住んでいたんですか?」と聞くんです。どんな日常を過ごしていて、どんな仕事をしていて…と。年収の話は一切聞きません。年収低くても、家賃滞納を絶対しない人は分かるので。

松井 空間については測ることが難しそうですが?

青木 人と同じで自分の感性を信じます。空間に関していえば、僕は建築士でも設計デザイナーでもありません。ただ、プランを考えるところからは絶対に逃げたくない。そして僕が追求するのは心地良さだけ。そう思わない空間には居続けたくないから。たとえば青豆ハウスなら、建物の中身はあまり意識していなくて、意識したのは共有部のデッキなんです。人が集まる。あそこは一年以上議論をして、あの空間になった。適度な段差があって、腰掛けられて、居続けられる仕掛けがほどこされてる。そこに寝そべって空を見上げた時に星空が見えるように、照明を上からではなく下から当てています。

松井 でも、心地良さってすごくそれぞれにありますよね。原体験はそれぞれ違うだろうし、どんな基準で空間デザインを決定していくんですか?

青木 そこも僕の主観なんです。僕が超こだわっていれば、誰かの主観にもつながる。それすら怯えて、最大公約数を求めると誰も幸せにならないと思う。

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青豆ハウスの共有部分

 
 

「大家さんになる」が楽しい未来へ

青木 僕は今、「大家の学校」を始めています。なぜそんなことをやるかというと、魅力的な住人やプレイヤーがいても、法の仕組みを変えてくれる行政のバックアップがあっても、空き家や空き地は、所有者の意識が変わらなかったら何も変わらないからですよ。そういう思いを持った大家さんを増やしたいんです。

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僕もそうでしたけど、2代目の大家ってボンボンのせがれじゃないですか。羨ましいと思われるけど、実はみんなやりたがらないんです。なぜかというと、世の中のマイナスの方向に向かっているから。人口も減っていて、過疎化も進んでいて。そのなかで場所を司る大家みたいな仕事は、なりたくない仕事ナンバーワン。でも、それでもやりたい人のバックアップをしたいと思って学校をやっています。

大家の勉強ってどちらかというとファイナンスの仕組みを学ぶとか、投資商品をどうやって動かすかとかが多いんです。そもそもの考え方や取り組み方を浴びる場所がないんです。大家の学校には実際、日本全国から人が集まって来ています。

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「大家の学校」開講式(まめくらしのfacebookページより)

たぶん日本はこれから土地も建物もどんどん価格が下がって、価値がないものになっていく。地方だと、固定資産税を払うのが大変だから、そのうち”大家をやってくれ”というケースも増えるはず。地域の当事者にならざるを得ない人が、これから日本全国でたくさん増えてくると思うんです。そのときに、大家さんになるのが楽しそうな未来を僕は作りたいと思います。

松井 つねに実践者でありながら、まわりにも活動を伝播させていますね。青木さんの活動を、これからも楽しみにしています。ありがとうございました!

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最後はお決まりのポーズで記念撮影