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半径500mのクリエイティブな自治区《MAD City》を科学する-解体新所#01レポート-

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新しい《場》をつくる実践者とともに、そのユニークな構造を考察するトークシリーズ「解体新所 ―まだ名前のない場所を科学する―」。2016年10月6日開催の「解体新所#01」では、寺井元一さん(株式会社まちづクリエイティブ代表取締役)をゲストに迎えました。ホストを務めたのは、創発空間プロジェクトを多く手がけるプロデューサーで、解体新所の”代表研究員”松井創(株式会社ロフトワーク)。イベントは、この「解体新所」のコンセプト説明からスタートしました。

 

「近年、一言では言い表せない空間や場所が増えてきました。今夜挑戦したいのは、なんだかよくわからないけれど、とても魅力的な場について、参加者全員で分解し、解明し、考えること。名前をつけて理解した気分になるのではなく、曖昧な定義の揺らぎを見つめることです。」(松井)

 

松井創

解体新所の代表研究員・松井創(株式会社ロフトワーク プロデューサー)。参加者には「舞台(空間)」「出演者(人)」「装置(機能・仕掛)」「演出(空気)」の切り口でメモするように提案

早速、今回の《場》の考察に挑んだイベントの様子をレポートします。

半径500mの創造自治区 MAD City

寺井元一さん寺井元一さん(株式会社まちづクリエイティブ代表取締役/アソシエーションデザインディレクター)

今回の主題は、寺井さんが手掛ける「MAD Cityプロジェクト」。千葉県松戸駅半径500mの極小エリアをクリエイティブな自治区に変転させる試みです。イベントでは、最初にMAD Cityの取り組みについて寺井さんからプレゼンテーションいただきました。

MADCITYのコンセプト松戸市(千葉県)は、江戸川を隔てて東京下町エリアの向かい側。かつては宿場町として栄えていた地域。MAD Cityは松戸駅半径500mのエリア。

MAD CItyの特徴的なアプローチは、行政ではなく民間企業が主導し、クリエイティブな「人の誘致」を開発手法としている点。

まちづクリエイティブ社の業務は、人を呼び込むためにエリア内の遊休空間に手を入れ、自由にDIYできる物件としてサブリース式で貸し出すこと。場の再生をまず行い、そこに住人を呼び込みます。さらに、交流スペースとしても活用されるよう、住人主導のイベントを積極的に計画し、彼らの活動を盛り上げています。

いろどりマンション【MAD Cityのまちづくり】DIY可能な「いろどりマンション」。「サブリースでまちづクリエイティブ社が責任をもつことで、入居者の自由を確保します」(寺井さん)

2010年のMAD CItyプロジェクトスタートから6年。その間に増えた松戸市全体の人口は約208人。そのうち約20%はMAD City関連の移住者です。そしてMAD City住民の8割はクリエイター。 特定の駅周辺に約120人のクリエイターとは! 現在、彼らはMAD Cityの住人でありながら、事業パートナーとしても活躍しています。

このように、寺井さんによるクリエイティブな自治区をつくる目論見は着々と進んでいる様子。それにしても、なぜ「自治区」なのでしょうか?

「できること」が減る社会に抗う

MAD Cityを始める以前、20代の寺井さんは、東京・渋谷エリアを中心にNPOを運営していました。例えば、海外では芸術家でも日本だと犯罪者扱いになってしまう「グラフティなどのストリートアーティスト」を支援するため壁画制作ができる場を用意したり、それまでの日本にはなかった年齢・所属・国籍を問わず参加できるストリートバスケット大会を運営したりなど。

創造的な人の可能性を拡げるため、まちを立体的に使っていく活動は、どんどん盛り上がりましたが、次第に苦しくなったのが「規制」の問題です。

「たとえば、東京では河原でのBBQは規制されています。だから多摩川で賑わっているのは、神奈川側の河川敷。代々木公園の野外ステージでも、音楽ジャンルによって縛りがあります。変でしょう?」

まちを盛り上げようとしても、まちの規制に縛られる現実。「”できることが減る社会”を変えたかった」と、寺井さんは言います。そして、「東京で尖ったことをやりすぎて怒られたから、地方でまちごと変えようと思って」と立ち上げたのが、MAD Cityに繋がるクリエイティブな自治区構想です。

古民家スタジオ 旧・原田米店【MAD Cityのまちづくり】「古民家スタジオ 旧・原田米店」。「何かやる人を呼びたいので場所を提供するのが最初の入り口。安い必要があるから、誰も目を向けてこなかった物件に手を入れます」(寺井さん)

パラダイススタジオ【MAD Cityのまちづくり】元ラブホテルをリノベーションしたアートスタジオ「PARADISE AIR」。「防音が効いているので音が出る制作をする人達が入居。住民同士の交流を促して、心置きなく話し合える関係をつくるんです」(寺井さん)

 

ちいさな自治区をたくさん

自治区の一例として、寺井さんが挙げたのは、コペンハーゲンのクリスチャニア地区。独自の国旗があり、国歌があり、法律もある。世界的な人気観光地で、経済が循環し、住む人の自治によって運営されているエリアです。

デンマークの首都コペンハーゲンの運河沿いに、34ヘクタールの土地、約1000人が暮らす「クリスチャニア(Christiania)」。デンマーク政府から独立したルールで自治が行なわれ、独自の国旗や国歌もある。

クリスチャニア

「海外には本当に”マジの自治区”がたくさんあるんですよ。MAD Cityで考えたのは、そういった小さな自治区がたくさんできれば、日本が変わっていくんじゃないかということ。松戸という地域に限定したまちおこしが目的ではなく、最初の創造的自治区の出発点としての場所なんです」

その狙い通り、現在、まちづクリエイティブ社では、佐賀県武雄市、松戸を含めて全国3箇所で新しいまちづくりに取り組んでいます。

会場の様子

 

部屋着で歩いていける距離

さて、寺井さんによるプレゼンテーションの後は、来場した方も参加するセッション。研究員・松井とともに、質疑応答を重ねながらMAD Cityの要素分解に挑戦しました。

参加者 寺井さんが考えるクリエイティブとは?

寺井 「自由と偶然」でしょうか。でも僕、基本的には長期戦がすごく好きなんです。終わりたくない。そのためには、自由を履き違えた「放埒(ほうらつ)」ではダメ。

参加者 最初から”クリエイティブシティ”を目指すような計画でした?

寺井 はい。そのイメージについては一貫しています。ただ、「スクワット」という不法占拠的な考え方があって。創造的なまちは、クリエイターのスクワットから始まることも多い。だから最初はスクワットできるまちを探していたんですが。不法占拠はヤバイだろうと言われて、やめました(笑)。

参加者 半径500mの理由は?

寺井 CET(セントラルイースト東京)の元事務局長・橘昌邦さんに、「(手がけるエリアは)狭ければ狭いほどいい。」というアドバイスをいただきました。駅前半径300mという数字を教えていただいたのですが、松戸の場合はデッキと駅ビルがほとんどになってしまうので、心理的に「家から部屋着で歩ける距離」と言われる半径500mに設定しました。

会場の様子その2

 

気づかれない「デザイン」

参加者 「アソシエーションデザイン」を標榜されていますが、コミュニティとアソシエーションの違いは?

寺井 松戸の地域コミュニティにどっぷり浸かって学んだことですが、コミュニティは運命共同体です。もともと地域共通のリソースを全員で守るために成立したから、フリーライド(タダ乗り)を許さない文化。一回入ると抜けれないし、閉鎖的な面もあるし、歴史的に仲良くできない町会があったりもする。

そうじゃない言葉をさがしてたどりついたのが「アソシエーション」。アソシエーションは出入りが自由で、共通目的がある自治的な組織です。

参加者 その場合の「デザイン」のポイントは?

寺井 デザインをしていると気づかれないデザインですね。例えば、あの人とあの人であんなことが起きたらいいな……と考えたときも、さりげなく会ってほしい。本人にとって「自分でやっている」ように思える余地を残した仕掛けが大事なんです。
杉田助手

 

70代〜80代が超クリエイティブ

参加者 MAD Cityの人々は、どう楽しむかを大事にしている気がします。職業クリエイターというよりも、クリエイティブに生きる人々。

寺井 そうですね。町内会の会長世代、今の70代〜80代の人達って保守的に思われていてその通りではあるけど、一方でノールール世代で超クリエイティブなんですよ。いや、もはや自由すぎて手に負えない(笑)。「道でキャッチボールしようぜ!」って言い出して実行したりとか。「もともと俺たちの土地だったから!」とか言って。

かたや、町内会の一番若手は60代。その世代はしっかり企業で勤め上げてきたからどちらかというとリスクヘッジ型でストッパー。僕らは、会長世代の「オッケー」という感覚で得をさせてもらってる部分が大きい。ただ、そういう方々もどんどん一線から退いてしまうので、大人の余裕ある文化を残さないとまずいなとも思います。

松井 MAD Cityは大家さんから物件を借りて、さらに住人に貸す「サブリース」物件が多いのも特徴的ですね。責任は寺井さんチームが持つわけですが、大変ですか?

寺井 そうですね。仲介だけの不動産業なら、右から左に流せばいいし、ノーリスクだから楽です。でも、サブリースはずっと住人に付き合う必要がある。住人に自由を渡してあげられる分、住人の人生に付き合う理由があるんです。リスクはあるのにリターンは小さい。不動産業では一般的ではありませんよね。でも僕達やまちづくり事業にはこのやり方があっています。もっとみんなやればいいと思いますよ。

キューブ

 

自治区づくりは入門編

松井 これからやりたいことは?

寺井 僕は、究極を言うと、国をつくりたい人間です。自治区は入門編。その先は…あんまりいうと危険人物扱いされますけどね(笑)。

会社としては、きちんとした利益があることも大事にしたいです。株式会社として成長して、長期的な利益を想定した投資できるような規模を持ちたいから。今、MAD Cityやまちづクリエイティブ社の「できてること」が広く伝えられてはいるけれど、その裏側の悩みの開示の仕方も課題。

松井 両面がまちづくりにはあるということですよね。僕達もこういったイベントで、成功事例だけを取り上げて表層的にわかったふりをするのは避けたい。「解体新所」で、これからもMAD Cityを追いかけたり、また来ていただいてもいいですか。

寺井 はい、ぜひぜひ!

松井 ありがとうございます! 今夜は、寺井さんのアプローチに驚きました。緻密に調べ、仮説を立て、イメージし、計画して、その中で余白のデザインまで含めて手がけている。しかも、全てが寺井さんやまちづクリエイティブ社によるものではなくて、住人の手で拡がるように設計されている点がユニーク。寺井さんのグランドデザインの技術や手法については、まだまだお聞きしたいことばかりです。本当にありがとうございました。

次回のトークでは空間の果たす役割についても取り上げられたらと思います。来場された皆さんもありがとうございました!

集合写真

解体が終わったところで、研究員と寺井さんの記念撮影

構成&テキスト:中田一会